関西の鉄道

最古の駅舎に復活する汽笛 明治のターミナル 旧長浜駅舎

旧長浜駅舎脇を通り過ぎる特急電車 =滋賀県長浜市
旧長浜駅舎脇を通り過ぎる特急電車 =滋賀県長浜市

米原(滋賀)からJR北陸線に乗って長浜(同)に到着する直前、左の車窓に古い洋館が見える。2階建てで屋根から伸びる2本の煙突が印象的なこの建物は「旧長浜駅舎」。1882(明治15)年、敦賀(福井)への鉄路の起点駅、琵琶湖を渡って大津(滋賀)と結ぶ鉄道連絡船への乗換駅として開業。国内に現存する最古の駅舎として、現在の長浜駅から徒歩で3分ほどにある鉄道資料館「長浜鉄道スクエア」で保存、展示されている。

設計は英国人技師。当時、駅舎はレンガ造りや木造の和風建築が主流だった中、異色といえるコンクリート造り。総レンガにするには予算不足だったという話も残るが、窓枠にレンガをあしらっている姿は逆におしゃれな感じだ。内部は事務所、待合室など。暖炉や凝った手すりの階段にこだわりが見て取れる。

現在は埋め立てられているが、鉄道連絡船が運航していた当時、駅舎は琵琶湖岸に建ち、連絡船乗り場までは徒歩ですぐ。周辺には旅館や商店が立ち並び、現在は駐車場になっている「長浜鉄道スクエア」の北側には何本ものレールが敷かれ、多くの客車、貨車、蒸気機関車が動き回っていた。89(同22)年に東海道線の新橋(東京)-神戸(兵庫)間が全通し、連絡船が廃止になるまで、長浜は確かに「明治時代のターミナル駅」だった。

「長浜鉄道スクエア」は新型コロナウイルスの感染拡大前は年間5万人が訪れていた人気観光スポット。家族連れと鉄道ファンが固定客のようで、長浜観光協会主幹の梅園いつ子さんは「長浜のほかの施設は地元ゆかりの大河ドラマなどが放送されれば、お客さんが増えるが、長浜鉄道スクエアは波がない」と話す。

この施設は日本最古の駅舎のほかにも「日本初」「日本唯一」に触れることができる。82(同15)年から89年まで運航された長浜-大津航路は日本初の鉄道連絡船。当時の時刻表などが展示されている。

鉄道スクエア内の「北陸線電化記念館」に展示されているED70形電気機関車は昭和32年、北陸線の田村(滋賀)-敦賀間の交流電化に合わせて投入された日本初の量産型交流用電気機関車。19両が製造されたが、形として残るのは同館の1号機だけだ。

北陸線電化記念館に展示されているD51形蒸気機関車(左)とED70形電気機関車=滋賀県長浜市
北陸線電化記念館に展示されているD51形蒸気機関車(左)とED70形電気機関車=滋賀県長浜市

令和2年6月、明治時代の鉄道遺産が多く残る長浜市と福井県敦賀市、南越前町にまたがるストーリー「海を越えた鉄道~世界へつながる 鉄路のキセキ~」が文化庁の「日本遺産」に認定された。旧北陸線のトンネル群などとともに、旧長浜駅舎も構成文化財の一つとなった。観光客増加が期待されたが、新型コロナ禍でままならない部分もあったという。2年度は訪問客は半減した。

現在の長浜駅。初代の駅舎をイメージして建てられた=滋賀県長浜市
現在の長浜駅。初代の駅舎をイメージして建てられた=滋賀県長浜市

長浜に鉄道がやってきて今年で140周年。企画展やオリジナルグッズの作製など、盛り上がりを図っていく。目玉のひとつが同館に展示されているD51形蒸気機関車の活用だ。コンプレッサーを使って「汽笛」が鳴るように改造する。部品を取り寄せ中で、梅園さんは「夏休みには鳴るように準備を進めている」と話す。米原-長浜-木ノ本(滋賀)間の運転で親しまれた観光列車「SL北びわこ号」が昨年5月に廃止が発表されただけに、うれしい汽笛の復活となる。

6年春には北陸新幹線が「日本遺産」で関係が近い敦賀までやってくる。梅園さんは「広域観光の起爆剤になれば」と期待を寄せている。(鮫島敬三)=おわり

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