絵本と歩む

世の中にあふれる不思議 「アリのかぞく」

アリの家族
アリの家族

アリは子供たちにとって最も身近で最初に関心をもつ昆虫です。幼い時期から地面に動く黒い点を目で追い、手で触れたり追いかけたりして関わっていきます。

平成29年に福音館書店から科学絵本として刊行された『アリのかぞく』(島田拓文、大島加奈子絵)は、1匹の女王アリが家族を作るところから描かれます。

クロオオアリの女王アリが公園の地面に巣を作り、卵を産みました。女王アリは卵を黴菌(ばいきん)から守るためになめたり、自分の体にためていた栄養を吐き出し幼虫に口移しで与えたりして世話をします。こうして働きアリが誕生すると、今度は働きアリが女王アリや卵の世話をして、巣を広げていきました。

ところが、巣が硬い土や石に囲まれていたため、アリたちは、卵や幼虫をくわえ、女王アリを案内して新しい巣に引っ越します。働きアリが誕生して1年がたった頃、家族は100匹くらいまで増えていきます。女王アリは20年近く生きて卵を産み続け、アリの家族は力を合わせて生きていくのです。

アリの姿や営みが、観察を通して丁寧に緻密に描かれています。

この本を読んだ子供たちは地面の断面の描写に関心を持ちました。「土の中はこんなふうになっているんだ!」と見えない世界を面白がりました。「女王アリはお母さんだったんだ」「みんなで助け合って暮らすんだね」と、アリの営みを自分たちの暮らしと重ねていきました。支え合う小さな命の営みに大人も驚かされます。

「でも、お父さんがいないのに、なんで卵が産まれるの?」と、子供から新たな問いも生まれました。生き物独自の方法で命を受け継いでいくことは、子供のみならず大人の知的好奇心を刺激します。この世の中はたくさんの不思議に満ちあふれていることに気づかされる一冊です。

(国立音楽大教授 同付属幼稚園長 林浩子)

会員限定記事会員サービス詳細