北海道・知床沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」が沈没した事故では、地元・斜里町が町を挙げて捜索活動や乗客家族のサポートに当たっている。人口約1万人あまりの町で起きた悲劇。現在も12人が行方不明で、同町には発見を待ち続けている家族がいる。町幹部は「知床を好きで来てくれた方々。少しでも力になりたい」と家族らの悲しみに寄り添っている。
斜里町役場は事故が起きた4月23日夜にウトロ支所に対策本部を設置し、馬場隆町長らが海上保安庁や北海道警などと情報交換しながら船の発見を待った。
24日朝に乗客が見つかり、町内の病院に搬送。死亡が確認された後は、町中心部にある体育館に遺体を安置した。当時は体育館が安置所になることは決まっておらず、「何もないところから始まり、すべてギリギリのところだった」と馬場町長は振り返る。
約200人の町職員は、ほとんどが事故の対応に当たっている。町の情報共有アプリを駆使し、町職員同士でリアルタイムに情報を共有。乗客家族の案内なども担当する職員は、家族からの要望や相談などに聞き漏らしなどがないよう、担当の職員同士で常に共有するようにしているという。
町職員は捜索にも協力。山や海に詳しい職員は、知床の野生生物の保護や調査研究などを行う「知床財団」とともに岬の陸地に上がって捜索活動を行い、いすや救命胴衣などを見つけた。馬場町長は「私たちは(海上の)捜索に行けるわけではなく、できることは限られている。突然事故の知らせを受けたご家族のお力に少しでもなれれば」と話す。
町民も事故を悼み、安置所となった体育館に献花に訪れている。2日までにみつかった14人全員を家族に引き渡したことから、町は安置所をいったん閉鎖したが、3日以降も献花に訪れる人は後を絶たない。
体育館近くにある生花店「知床フラワーさかい」には連日、花を求める人が多く訪れている。当初は町民が多かったが、大型連休に入ってからは観光客の姿も増えた。子供も犠牲になったことから、若い世代や子供がいる世代の姿が多くみられたという。
同店の坂井昌斉さん(46)によると、系列店では献花のための花を無料で提供。切り花は傷んでしまうため、献花された花束をほどいてフラワーアレンジメントに作り替え、献花台の脇に飾っている。坂井さんは「本当に痛ましい事故だと思う。花屋ができることは花しかないが、うちでできることを精いっぱいやりたい」と話した。
「(乗客は)知床が好きで何回も来てくれたり、家族で楽しみに来てくれたりした方々。(事故の発生までに)少しでも楽しんでいただけたのだろうかと考える。残念な結果になってしまい本当に申し訳ない」。馬場町長は、こう述べた上で、「今も現在進行形。一番つらいご家族に、やれることはしっかりやっていきたい」と力を込めた。(大渡美咲、松崎翼)