古都・奈良への玄関口につながる近鉄大和西大寺駅(奈良市)は、大阪難波や京都、橿原神宮前(奈良県橿原市)方面へと通じる一大ジャンクションだ。何本もの線路が立体ではなく平面で複雑に交差し、線路の分岐(ポイント)は計41基も。絡み合う線路上を特急や快速急行がひっきりなしに発着する様子を見ようと全国から鉄道ファンが訪れる。駅には展望デッキもあり、親子連れらにも人気のスポットだ。
「大和西大寺西大寺です」
神戸三宮行き快速急行が到着すると続々と人が乗り込む。一方、別の乗り場からは京都行き急行や橿原神宮前行き特急などが出発。その度に大勢の人が行き交う。
大阪、奈良、京都、橿原への4方面の電車が発着する大和西大寺駅。
通る電車は1日約1400本。乗降客は約5万人だが、乗り換え利用者を含めると10万人以上という。
そんなジャンクションの最大の特徴は、4方面にのびる線路と、車庫に向かう線路が平面交差することによるポイントの多さだ。
41基は、全国でも屈指の数。ホーム先端から見ると何本もの線路が複雑に分かれているのがわかり、鉄道ファンらをうならせる。
平日のラッシュ時で奈良線・京都線・橿原線の電車発着は1~2分間隔で、同時発車するケースも。電車の進路と信号は基本的にコンピューターによる運行管理システムで制御している。だが、発着が重なるときは、運行に支障が出ないよう信号係員が手動で電車の出入りを調整している。
「2人の係員が阿吽(あうん)の呼吸で瞬時に状況を判断して操作する。熟練の技によって列車が遅れず、事故も起きないようにしている」と、澤井良春駅長は説明する。こうした操作を1日約800回行うという。
苦労するのは冬場だ。降雪の際、ポイントが凍らないよう、事前に設置しておいた「融雪用カンテラ」を点火する必要があり、澤井駅長は「数多いので手分けしてやる。大変な作業だが、安全運行のためにしっかりやりたい」と力を込める。
熟練の技が支える大和西大寺駅。最近では先端技術を活用する「近未来ステーション」を掲げ、出発時刻などを知らせる大型マルチディスプレーや、駅と周辺を案内する人工知能(AI)搭載のロボットを導入し、利用客の利便性向上を図っている。
さらに駅ナカのショッピングモール「タイムズプレイス西大寺」では、眺望ダイニングスペースもオープン。ゆっくり食事を楽しみながら、眼下に複雑に行き交う電車を眺めてみては―。
複雑化 平城宮跡も要因
100年以上の歴史を刻む近鉄大和西大寺駅はこれまで駅や車庫などの移設、増設により大きく変貌を遂げ、鉄道ファンらをとりこにしてきた。
「いろいろな電車がひっきりなしにやって来るので見飽きない。特急もバラエティーがあり、乗り入れている阪神や京都市営地下鉄の車両も見られる」
鉄道に詳しい奈良大学の三木理史教授(交通地理学)は同駅の魅力をそう話す。平面交差による複雑な分岐となったのは、平城宮跡の存在が影響したという。
同駅は大正3(1914)年に近鉄の前身・大阪電気軌道の駅として開業。ほぼ現状となったのは昭和38年から40年にかけての工事で、奈良線と橿原線の分岐は約240メートル東に、新駅は約140メートル東に移設。車庫は奈良線と並行する形で駅の東約1キロの地点で拡大させる計画だったが、その地が平城宮跡の一部にかかった。
「周辺は車庫を置く理想的な場所だったが、平城宮跡の保存運動が活発化した」と三木教授。計画は変更され、車庫は駅南東の橿原線と並行する現在地に整備された。だが、この立地が線路を複雑化したといい、三木教授は「奈良駅発の電車を仕立てる場合、車庫からいったん大和西大寺駅に入ることになった」と説明。回送が加わり同駅を通る列車が増えたという。
こうした変遷を経てきた大和西大寺駅。将来は、景観保全と交通渋滞緩和のため世界遺産・平城宮跡を横切る奈良線の移設と同駅の高架化も計画されており、さらにどのように様変わりするか注目されそうだ。(岩口利一)
今年は日本の鉄道開業150年。新橋―横浜間の開通以降、各地に路線網が広がり、関西も個性あふれる鉄道を生み出してきた。関西の鉄道の「ナンバー1」にまつわる話題をみる。