首相東南アジア歴訪 対露姿勢一変難しく「単打」狙う

ベトナムのファム・ミン・チン首相との会談後、記者団の取材に応じる岸田首相=1日、ハノイ(代表撮影・共同)
ベトナムのファム・ミン・チン首相との会談後、記者団の取材に応じる岸田首相=1日、ハノイ(代表撮影・共同)

岸田文雄首相はインドネシア、ベトナム、タイの東南アジア3カ国を訪問し、大型連休に合わせたアジア・欧州諸国歴訪の「前半戦」を終えた。ウクライナ侵攻を続けるロシアへの対応が焦点となる中での東南アジア諸国歴訪は、先進7カ国(G7)で「アジア唯一のメンバー国」として対露包囲網形成を働きかける狙いがあった。

1日にベトナムのファム・ミン・チン首相と会談した後、宿泊先のホテルに戻った首相は高揚した表情を見せた。ベトナム側が日越首脳会談の場でウクライナに対する50万ドルの人道支援を表明したからだ。

「私の訪問の機会にベトナムとして初めてのウクライナへの人道支援を発表したことを前向きな一歩として評価する」

首相は記者団にこう強調し、繰り返しベトナムの人道支援に言及した。「前向きな一歩」という評価は話す途中で「大きな一歩」と言い換えられていた。ベトナムの支援表明が首相を喜ばせたのは、ロシア包囲網に東南アジア諸国の理解を得る上でベトナムが「最大の難所」とみられていたからだ。

東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国のうち、国連総会の非難決議で棄権、国連人権理事会のロシア追放決議で反対に回ったのはベトナムとラオスの2カ国のみ。ベトナム軍の装備は8割がロシア製とされ、首相自身も「ベトナムはロシアとの伝統的な関係があり、難しい立場があることは理解している」という中で臨んだ会談だった。

ただ、3月20日に行ったカンボジアのフン・セン首相との会談では「カンボジアがここまで踏み込むとは思わなかった」と日本側を驚かせていた。共同声明でロシアの行為を国際法違反と位置付けたからだ。これがベトナム側にも何らかの対応が必要だと認識させた可能性もある。

ベトナム側は首脳会談の場で人道支援を発表することを事前に日本側に伝えており、政府関係者は「日本に気を使ったのだろう」と語る。タイのプラユット首相もウクライナと周辺国に対する人道支援を表明しており、岸田首相は「成果」としてG7メンバーに説明する考えだ。

一方、インドネシアは20カ国・地域(G20)、タイはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の今年の議長国だ。「国際機関や多国間フォーラムは、もはやこれまで通りロシアとの間で活動を行うべきではない」とするG7の立場に理解を求めたが、いずれの議長国とも11月の首脳会議に向けて「連携していく」ことを確認するにとどまった。

インドネシアのジョコ大統領は4月29日にロシアのプーチン大統領がG20首脳会議に出席する意向を伝えてきたと明らかにし、首相との会談当日にぶつけてきた形となった。インドネシアを離れた後に発表されていれば首相の面目が丸つぶれになりかねなかったのも事実だが、ジョコ氏もプラユット氏もロシアを名指しで非難することは回避した。

改めて厳しい現実を突き付けられたが、大国のはざまでバランスをとってきたASEAN諸国の対露姿勢を一朝一夕に急変させるのは難しい。政府としては大振りでホームランを狙うのではなく、シングルヒットを続けてASEANの変化を促す考えだ。首相は今月2日夜、タイでの首脳会談を終えた後、記者団にこう語った。

「人道支援を明らかにするなど反応は明確にあった。こうした成果の積み重ねこそ国際社会の雰囲気を醸成していく上で大事だ」(ローマ 杉本康士)

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