冬の季語マスクの通年着用 コロナが俳句を変えるか

15年ぶりの改訂が行われている「角川俳句大歳時記」(KADOKAWA提供)
15年ぶりの改訂が行われている「角川俳句大歳時記」(KADOKAWA提供)

冬の季語として定着していたマスクが「季語でなくなる」という声が俳壇で広がっている。新型コロナウイルスの感染防止対策としてマスク着用が通年化しているためだ。新型コロナは俳句を変えるのか。俳壇で権威のある角川書店の季語辞典(歳時記)の15年ぶり改訂で、マスクがどう扱われるかも注目されている。

俳壇の最新動向を伝える「俳句年鑑2022年版」。俳人による鼎談(ていだん)で、コロナを詠んだ句が少ないことが話題になった。マスクについても「いずれ歳時記からなくなるかもしれない」などと議論の俎上(そじょう)に。

俳句は、17音に季語を一つ入れるのが決まり。マスクが季語として現れたのは大正時代とされる。今では、多くの歳時記に防寒や風邪予防のマスクが収録されている。

だが、コロナ禍の2年で季節感が薄れ、新聞投稿でもマスクを詠んだ句をほとんどみかけない。投稿歴3年という長野市の会社役員、武田芳子さん(74)は「夏に使うのも異常とも思わなくなった。マスクに季節を感じる必要がないし、マスクをする私たちは印象的でもない」と話す。

俳句では季語が2つ以上入る「季重(きがさ)なり」を避ける傾向があるのも、マスクが詠まれなくなった要因の一つとみられる。「夏マスク」を詠んで採用された経験のある大阪府枚方市の加藤賢さん(82)は「冬に限定されるとつくりにくい。コロナが収まればまた冬の季語になる」とみる。

こうした変化に早くから着目していたのが、人気テレビ番組「プレバト‼」で知られる俳人の夏井いつきさんだ。自身の動画チャンネルで令和2年12月、自著「絶滅寸前季語辞典」の改訂版にマスクを入れる考えを示し、「季語の生き死にというのも、人間の社会と一体になっている」と述べていた。

動画では、建具の発達でなくなりつつある「隙間風」や、一度は廃れたがカラフルに復活した「すててこ」を引き合いに出し、マスクは逆に着用が広がったことで季節感を奪われるケースだとも指摘している。

マスクをめぐっては、花粉症で着用する人の増加に伴い、歳時記の記述が変わってきた経緯もある。例えば「増補版いちばんわかりやすい俳句歳時記」(主婦の友社)には、「他の季節に使うときは『花粉マスク』など別の季語が要る」と記されている。

季節感が揺らぐ中、改訂が進む歳時記の定番「角川俳句大歳時記」全5巻は季語の収録数が1万8千件以上と手厚い上、編集委員に俳壇の重鎮が名を連ねている。関わっている俳人も多く、その記述は俳壇への影響が大きいとみられる。

第一弾の春の巻が刊行され、12月にかけ夏、秋、冬、新年と続く。発行元は、文学的遺産である季語の削除は原則しないとした上で、「マスクに限らず、各巻刊行まで季語の立項採否はお答えしていない」としている。

(寺田理恵、竹中文)

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