朝晴れエッセー

令和3年度年間賞は「最後のおこづかい」

朝晴れエッセーの年間賞を選考する作家の玉岡かおるさん(左)と門井慶喜さん=大阪市浪速区の産経新聞大阪本社(鳥越瑞絵撮影)
朝晴れエッセーの年間賞を選考する作家の玉岡かおるさん(左)と門井慶喜さん=大阪市浪速区の産経新聞大阪本社(鳥越瑞絵撮影)

朝晴れエッセー月間賞受賞作12本から選ぶ令和3年度の年間賞は、西井華恋(かれん)さん(23)=高知県須崎市=の「最後のおこづかい」(5月17日掲載)に決まった。選考委員の作家、玉岡かおるさん、門井慶喜さん、酒井充・産経新聞大阪文化部長が選定。それぞれ選考委員賞も選んだ。年間賞受賞作は、認知症のような症状で孫の筆者を忘れた亡き祖父との日々を振り返った。祖父と孫との確かな心の交流と、それを支えにして故郷から離れた地で始まった社会人生活への誓いが清々しく感じられる作品だ。

玉岡 毎年思うことですが、いい作品を選んできましたね。ここまでくると、どの作品が年間賞でもおかしくないと思います。

門井 年間賞の選考に参加するのは3度目となりました。良作ぞろいと私も思いました。

酒井 私も3月月間賞の選考から担当になったばかりですが、確かにいい作品ばかりです。まずは門井先生と私が〇をつけた「最後のおこづかい」から参りましょう。

門井 大好きな祖父が認知症のようになり、亡くなったという、情緒的な話に単純にはしていないんです。これは構成によるものと思います。題材を客観的に見ているように感じます。今回改めて読んでみて、情緒と冷静さのバランスがいいと思いました。5月月間賞の選考での評価は◎でしたが、今回も高評価は揺るぎません。

酒井 社会人になったばかりのころに書いた文章で、初々しさや責任感が感じられます。家庭の事情も明かしつつ、それが励みになっているということが率直に伝わり、いい文章だと思いました。20年以上前の新入社員だった自分を振り返ると、そんな思いになることあったかな…。筆者は故郷の北海道から遠く離れた高知にいらっしゃるようですが、あれから帰省できたのでしょうか。

玉岡 認知症だった夫の母を介護した経験があります。認知症の方は記憶がふっと紛れることがあり、最後に人柄が出ます。優しいおじいちゃんだったんでしょうね。孫はいつまでも小さな頃のままと思っていて、だからお小遣いをあげたのかもしれません。おじいちゃんと、幼い頃からの孫との歴史というか、心の交流の時間が凝縮して見える気がする、とてもいい作品でした。

酒井 玉岡先生が〇を付けた「祖母の祈り」についてお願いします。

玉岡 戦争や終戦をテーマにしたものは、朝晴れエッセーの一つのジャンルとして確立しています。ですが、戦争体験を語れる方が減ってきつつあります。このジャンルは守っていかねばと思います。

筆者は戦後の世代ではありますが、戦争を題材にした作品の中ではこの1年の最優秀作品と思います。今、ロシアによりウクライナが侵攻されています。亡くなった人を思う気持ちは国が違っても同じ。このテーマは書き継がれてほしいです。

酒井 門井先生が〇の「もしもの向こう側」はいかがでしたか。

門井 もう一度読み返しても、やはりよかったです。最後の「迷いながらもなんとかこちら側を歩いている」という一文の「こちら側」の含蓄が非常に深いです。僕の読み方では、彩子の側にふみとどまっているという意味であり、空想と現実だったら現実から逃げない場所に辛うじているんだよ、ととらえました。

作品で「ありさ」は当初は名前で、カギカッコつきで登場しましたが、カギカッコがなくなるところがあります。単なる名前でなく人になっている。ありさを自分の中で育てていたことが分かります。これが今回改めて読んでみて発見したことでした。

酒井 私が〇をつけた「大喜利の効能」についてです。私の父も2年前に他界しており、携帯電話を持っていたのですが、めったに使わない人でした。留守番電話にメッセージを吹き込んでも、返してくれないタイプでした。筆者と私はほぼ同い年で、作品と、私の経験とがリンクして共感しました。亡くなった人の携帯電話は捨てられないものです。みんなどうしているのかな、とも考えました。

さて、年間賞を決めたいと思いますが…。

玉岡 どの作品が受賞してもおかしくないですが、お二人が〇を付けていることだし、「最後のおこづかい」がいいのではないですか。

門井 あ、よろしいのですか。

酒井 では年間賞は「最後のおこづかい」に決定いたします。それぞれ、選考委員賞をお願いします。

玉岡 玉岡賞は「祖母の祈り」に。評価することで、終戦にまつわる作品の投稿が増えることを願って。

門井 門井賞は「もしもの向こう側」にいたします。

酒井 文化部長賞は「大喜利の効能」に。お二人に、この1年の作品の講評をお願いします。

玉岡 新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた令和2年度に比べ、3年度は肩の力を抜いた作品がみられました。作風としては通常に戻ってきているのかな。コロナをきっかけにした作品はあるが、コロナそのものを書いているわけではないですね。

門井 コロナとほかの話題を組み合わせる余裕が出てきたように思います。

酒井 「ウィズコロナ」が定着しつつあるということでしょうか。

門井 作品を投稿する際に参考になるのは、1月月間賞の「マイ シュプール」の筆者、塩谷一子(かずこ)さんの受賞の言葉にある一文で「書き出したら止まらなくなり、規定の何倍にもなり短くする作業が大変でした」と。これは、文章の書き方として正しいように思います。

600字書くなら用意する材料は1200字、2400字分。たくさん用意し、厳選して600字にするのが結局一番いい文章になる確率が高いです。ワンランク上のエッセーを書くなら参考になると思います。

年間賞受賞の西井さん「祖父との思い出は心の栄養」

この度は大変光栄な賞をいただき、ありがとうございます。故郷の北海道は今、桜が満開の時期です。

祖父は桜が散ってからあっという間に亡くなりました。しかし、散った花びらが土に還(かえ)って養分となるように、祖父との17年間の思い出は、私の心の栄養となり、日々を歩む力となっています。

私は資源会社で働いており、さまざまな産業に原料を供給しています。原料は人々の目に触れることはほとんどありません。

そんな仕事のやりがいについて悩むこともあります。しかし、祖父との思い出が他の人に知られることがないように、私の仕事も見えないものだからこそ、何かの力になることができる仕事だと思っています。

これからも、誰からも好かれていた祖父のように、さまざまなご縁を大切にして、会話に満開の花を咲かせていきたいです。

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