日タイ首脳会談 価値観外交よりも戦略的連携に軸足

夕食会でタイのプラユット首相(右)と乾杯する岸田首相=2日、バンコク(代表撮影・共同)
夕食会でタイのプラユット首相(右)と乾杯する岸田首相=2日、バンコク(代表撮影・共同)

日本とタイ両政府は2日、日本からの防衛装備輸出に向けた「防衛装備品・技術移転協定」の締結で合意し、署名した。日本政府がタイとの安全保障協力の強化を目指すのは、東南アジアで影響力拡大を図る中国に対抗する上で、アジア太平洋地域における米国の同盟国同士で安全保障面での連携を強化する必要があるからだ。ただ、米国の外交は、2014年に軍事クーデターが発生したタイを遠ざけてきた面が否めず、日本としては戦略的連携に軸足を置いた外交でタイを日米の側に引き寄せたい考えだ。

日本の首相がタイを訪問するのは、国際会議に合わせた訪問を除けば13年1月以来で約9年ぶり。タイでは14年5月に軍事クーデターが発生し、当時のオバマ米政権は軍事支援を凍結。日本などがクーデター前のインラック政権と進めてきたインフラ計画も凍結された。

この間、タイは中国軍潜水艦を購入する契約を締結するなど中国に接近し、米国のタイ向け武器輸出額は中国に逆転された。日本政府内にはクーデター当時にタイを孤立させた判断を悔やむ声もあるが、バイデン米政権は昨年12月に開催した民主主義サミットにもタイを招待していない。

中国の台頭やロシアによるウクライナ侵攻に伴い、東南アジアは日米と中露の間の地政学的な競争の重心となっている。民主主義と自由主義が時として矛盾をはらむのと同様に、民主主義の普及と戦略的パートナーの維持・拡大も常に両立するとはかぎらない。日本がタイとの安保協力強化に乗り出したのは、価値観外交よりも戦略的判断を重視した結果ともいえる。

日本はこれまで、防衛装備に関する協定をフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアとの間で締結している。いずれも南シナ海の領有権や排他的経済水域(EEZ)をめぐり中国と係争を抱える国だ。タイは南シナ海問題の当事者ではないが、外務省幹部は「タイは親日国で米国の同盟国でもあるのに防衛装備協定がなかったのが不思議なくらいだ」と語る。

タイが購入契約を締結した中国製潜水艦をめぐっては、ドイツがエンジン供給を拒否したことで計画が頓挫している。中国とタイを結ぶ鉄道建設計画をめぐっても両国の間で摩擦が生じており、タイと中国の間に楔を打ち込む好機ともいえる。外務省幹部は防衛装備協定を締結することで「タイをこっちの側に引き寄せる効果を狙いたい」と語る。(バンコク 杉本康士)

日タイ首脳、防衛装備協定に署名

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