ビブリオエッセー通信

ウクライナ 世界を開く扉に

どれもがウクライナにつながっている―。ロシア軍の侵攻以後、ビブリオエッセーも関連する寄稿が少なくない。直接、間接にそう読める本や文も含めてなのだが、一冊の本が世界を開く扉になっている。

前回紹介した『風が吹くとき』や『社会契約論』に始まり、たとえば原油価格の高騰を招いた侵攻に関して、伊藤敏彦さんは『海賊とよばれた男』(4月5日掲載)を選んだ。「日本人の勇気と英断が国際社会に投げかけた意味が読み取れます」。それは日本人が今やるべきことは、という自問でもあるだろう。

この2日間は直球の2作を続けて取り上げた。『そいつを黙らせろ―プーチンの極秘指令』(同7日)は古間恵一さんが「ずいぶん前の本ですが独裁者の本質を見抜いていた」と現在も果敢に批判を続ける著者のことを教えていただいた。

続く『ザ・レッド・ライン 第三次欧州大戦』(同8日)は文字通り越えてはならない一線。北浦坦さんは「戦闘場面ばかりでこの時期にためらわれたのですが」と現況を思いやりつつ、著者の「警告」という言葉に「これもまた戦争と平和を考えるための一冊」と投稿した。

ロシア軍による北海道侵攻を描く『小隊』(3月22日)も怖ろしい未来小説だ。著者は元自衛官だけに細部の描写も生々しく、白井功さんは「ウクライナの戦場が浮かび、名作『野火』を思い出しました」とリアリティーを高く評価する。

子供の本も侮れない。『トルストイ民話集 イワンのばか』(同18日)は好戦的で権勢欲の強い長兄、物や金に執着する次兄を純真な末弟イワンと対比させる。上田龍男さんは「兄たちの性悪な強欲ぶりにプーチンの姿が重なり、それゆえイワンが際立ちます」という。この寓話は戦争を否定している。

『てぶくろ』(同15日)はウクライナの民話だった。大村昌さんは「みんなが入るてぶくろは日本人にはこたつの風景。森の静けさを感じる絵本でした」。ネットではクレヨンハウスの落合恵子さんが「武器ではなく、『てぶくろ』が意味するものを。」と書いた一文が目に入った。「いま世界に必要なのは、『分かち合うてぶくろ』です」と。そう、理想で終わらせたくはない。

今一度、昨年掲載したウクライナ生まれでベラルーシの作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『セカンドハンドの時代』(10月6日)から。「一九一七年の革命前、アレクサンドル・グリーンはこう書いた。『未来は、なんだか、あるべき場所からいなくなっている』。一〇〇年が過ぎて―そして、未来はまたもやあるべき場所にいない」。

私たちがあるべき未来を取り戻すのはいつだろう。

(荻原靖史)

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