治安最前線~新任

(2)職質で女性の先駆者目指す 遊撃特別警ら隊巡査長

パトカーに乗り込む警視庁遊撃特別警ら隊の吉沢沙梨巡査長=4月21日、深川署
パトカーに乗り込む警視庁遊撃特別警ら隊の吉沢沙梨巡査長=4月21日、深川署

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「遊撃(特別警ら)隊の吉沢です。人待ちですか」

4月下旬の午後、同隊に所属する吉沢沙梨巡査長(28)は都内の店の前にいた女性に声をかけた。「職務質問になります」と伝え、身体検査を実施。不審なものを持っていないかを確認すると、お礼を述べて現場を後にした。

吉沢さんが乗るパトカーは往来のあらゆる動きを見逃さないよう、時速30キロほどでゆっくりと街を走る。約1時間で3人に声をかけたが、いずれも危険物などを所持している人はいなかった。

1日で10~20人に声をかける。「職務質問をしなければ不審点は分からない。『あのとき声をかければ』と後悔につながるかもしれない」と積極的な職務質問を心がけている。

都民のために全力

警察官を志したのは、同じく警視庁警察官だった父の影響があった。忙しく、家に帰ってこられない父の姿を見て、「都民のために全力を尽くしていると憧れた」。大学卒業後の平成29年に入庁した。

吉沢さんは練馬署を経て、令和3年5月から遊撃特別警ら隊に所属する。隊員は自動車警ら隊や鉄道警察隊出身者が多く、必然的に30~40代の職員が多くなるが、吉沢さんは入庁6年目の最年少だ。

唯一の女性隊員でもあり、異例の抜擢(ばってき)とも言える。そのきっかけとなったのは、職務質問に対する高い意識と摘発実績だ。

練馬署勤務の3年2月、未明にパトロールをしていたとき。吉沢さんが運転するパトカーを追い越した車の助手席に座る男が視線をそらすようなしぐさをした。それを見逃さず、車を止めるよう呼びかけると、男2人が降りてきた。

「防犯活動で回っています。協力してください」。男らは驚いた表情を見せたが、素直に応じた。持ち物に不審なものはないが、会話にかみ合わない部分もある。

「車内に薬物があるかもしれない」。予想は的中。後部座席の足元に大麻などが入った袋が見つかり、2人を大麻取締法違反(共同所持)容疑で現行犯逮捕。後に覚醒剤を所持・使用していたことも判明した。

未来の屋台骨を支える

これまでも職務質問を通じた摘発を重ねてきたが、初めて薬物事案でも成果を上げた。それだけに喜びも大きく、先輩の指導や警ら活動を通じて職務質問に関心を深めていたが、「職務質問部門で生きていこう」と決意が固まった。

女性で職務質問の高い技能を習得した警察官は警視庁でも少なく、女性隊員を養成する必要性もあることから、27歳の若さで抜擢されたとみられる。

昨年5月に隊員になって以降、覚醒剤の使用事件や銃刀法違反事件など9件もの事件を摘発した。

職務質問を主とする部署で5年以上、鍛え上げられてきた猛者が集まる遊撃特別警ら隊。2年目の吉沢さんに、甲斐将之第1中隊長は「まだまだ新人で、女性職員が憧れるような隊員になってほしい」と期待を寄せる。

吉沢さんも「あらゆる分野に精通し、職務質問の分野で女性の先駆者的な存在になりたい」と高い理想を抱く。都内の治安を守り、未来の警視庁の屋台骨を支える人材を目指す。(宮野佳幸)

警視庁遊撃特別警ら隊

深川署に本部を置き、職務質問のエキスパートが集う。平成14年に刑法犯の認知件数が約30万件となり、戦後最多を記録したのを受け、連続発生する放火や通り魔などの事件に対応するために16年に設置された。各警察署の要請に応じてパトロールを実施するほか、都内全域を対象に警戒活動を実施する。東日本大震災では、東北地方でパトロールなども行った。

記者メモ

取材当日、実際に職務質問をしている様子を見せてもらおうと、吉沢さんが乗るパトカーの後ろに車をつける形で同行させてもらった。せっかくの機会なので、吉沢さんらが声をかける相手を探してみようと対象を探してみた。しかし約1時間の取材で3人声をかけたうち、1人も当てられないどころか、職務質問すべき対象の存在すら見つけることができなかった。

建物の陰にいた人は、飛び出していく吉沢さんの姿をみて、その存在に気づいたが、路地裏にいた人は同乗の南雲大輔巡査長がパトカーを止めて現場に向かう姿を追いかけなければ、そこに人がいたことすら分からなかった。

極めつけは、私の正面から歩いてきた3人目。「私たちを避けるようにコースを変えていた」と言うが、私の方が近くにいたのに違和感に気づけなかった。

「目に見えるものはすべて確認するように教えられている」と吉沢さん。職務質問の精鋭の実力を見せつけられた。

(3)に続く

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