事故直前の訓練、把握せず 「素人社長」ぶれる説明

家宅捜索を受けた「知床遊覧船」の事務所を出て、記者に囲まれる桂田精一社長(中央)=2日午後3時43分、北海道斜里町
家宅捜索を受けた「知床遊覧船」の事務所を出て、記者に囲まれる桂田精一社長(中央)=2日午後3時43分、北海道斜里町

北海道・知床半島沖で発生した観光船「KAZU I(カズ・ワン)」の沈没事故では、運航会社「知床遊覧船」のずさんな安全管理に加え、桂田精一社長(58)が、船の運航について十分に把握していなかった実態が会見などから浮かび上がっているが、事故直前に行われた訓練についても、乗客の家族らに対する説明がおぼつかなかったことが分かった。事故から3日で10日となるなか、家族らの不信感は募り、国土交通省の関係者もその対応に苦言を呈している。(大渡美咲、松崎翼)

直近の訓練把握せず

先月29日に行われた乗客家族への説明会。桂田社長は安全訓練のもようを写した写真を提示した。船から救命具を投げたり、船から人が下りたりする様子が写っていたという。

ただ、桂田社長は、訓練がいつ行われたのかや、内容について、把握しておらず、家族側から改めて詳しく説明するように求められたという。

関係者によると、この訓練は4月23日に起きた事故直前の21日に行われていたとみられる。「知床遊覧船」と他の地元業者3社でつくる「知床小型観光船協議会」が実施したもので、4社の従業員らが数人ずつ参加したという。ただ、協議会の会長だった桂田社長は不在だった。

「社長は船の運転は車の運転と同じで免許があればよいと考えている」

こう証言するのは、元従業員の男性。男性によると、桂田社長が事務所に来るのは年に1回程度だったという。

男性は「同業他社は社長も船の免許持っていたり、元船乗りだったりするが、桂田社長は船の知識もなく、素人だった」と明かした。

二転三転する説明

事故や同社の安全管理規程に対する説明も変遷してきた。

桂田社長は、4月27日の記者会見では、同社の安全管理規程について、「波の高さ1メートル以上の場合」「風速8メートル以上の場合」などの場合は出航を見合わせることになっていたと語った。その上で、これらの条件は明文化はされておらず、「他社との暗黙の了解」だと説明していた。

この会見翌日、斉藤鉄夫国土交通相は記者会見で、「社長が数字についてあやふやな受け答えをしている場面も見たが、数字を明記した安全管理規程がある」と指摘した。

これを受け、同30日に開かれた乗客家族への説明会で桂田社長は、「1メートル以上」としていた出航中止の波の高さを「0・5メートル以上」に訂正。安全管理体制の核心についての認識もあやふやだった実態がうかがえる。

出航前日にも不備

また、知床遊覧船では事故前日の夕方になっても出航に向けた準備が整っておらず、船内の格納庫に片付けなくてはならないはずの救命胴衣が、座席の上に置かれたかごに放置されたままだったことも判明した。

事故が起きたのは、今シーズンの運航初日だった。元従業員によると、救命胴衣は公的な検査で数えるためいったん外に出すが、それが終わると片付ける手はずになっていた。検査は前日夕までには終了していたという。

元従業員は「船長はやることが多いのに人が足らず、甲板員も新人だった」と話す。豊田徳幸船長(54)は3月、自身の交流サイト(SNS)に「ブラック企業で右往左往です」と投稿していた。

これまでに桂田社長から家族に対する説明は7回行われている。説明会に同席した国交省の担当者は「毎回毎回言うことが違っており、(ご家族は)あきれている」と明かす。

こうした状況に、家族側はこれ以上、桂田社長の説明を受けても進展はないとみて、当面は桂田社長からの説明は開かれないもようだ。今後は保険会社や弁護士を通じてのやりとりになるとみられる。

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