ビブリオエッセー

そこはネバーランドではなく 「ピーター・パンの冒険」ジェームズ・M・バリー著 大久保寛訳(新潮文庫)

「永遠の少年」という言葉を聞くとピーター・パンを連想する人は多いと思う。ネバーランドを舞台に繰り広げられる大冒険。ディズニーのアニメで知られるお話の原作は『ピーター・パンとウェンディ』だ。

ところがピーター・パンには別の物語があった。それより前に著者バリーが書いた『ピーター・パンの冒険』。読んで驚いた。ピーター・パンは半分が鳥で半分が人間の「ドッチツカズ」。生後一週間で成長をやめ、飛び出してロンドンのケンジントン公園へ行く。そこで鳥や妖精たちと楽しく遊ぶのだ。ウェンディもティンカー・ベルもフック船長も登場しない。

興味深いのはピーターの性格だ。ずっと母を慕い続ける男の子。普通の人間の子供のように一日中遊びたいと飛び立ったが、「絶対に帰る」と心に決めていた。

『ピーター・パンとウェンディ』でピーターはウェンディにこう語る。「ぼくは大人になんかなりたくないんだ」。でも子供はいずれ大人にならなければならないと知っている。大人になるのは大変だがみんなが受け入れる。

もし子供のままでいなければならないとすれば、どうだろう。自分だけが取り残されていくような孤独を感じるのではないか。

ピーターは母が泣いている夢を見て母のもとへ帰ろうとした。だが飛び出すときは開いていた窓は閉まり、呼びかけても届かない。すでに自分の居場所はなくなっていた。

こどもの日を前にこの物語を読んだ。改めて考えたのは大人とは何か。そして著者のテーマについて。どこか切ない感じもするが、もう一つのピーター・パンも、ぜひ知ってほしい。

札幌市南区 菅谷勇樹(33)

投稿はペンネーム可。650字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556―8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

会員限定記事会員サービス詳細