書評

『中銀カプセルタワービル 最後の記録』中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト編(草思社・3850円)解体直前の姿 生き生きと

ついに解体工事が始まった黒川紀章設計の「中銀カプセルタワービル」(東京・銀座8)は、建築思想メタボリズムの代表作として世界中に知られた近代建築だが、解体直前の姿を完全に記録したという本が刊行された。

竣工(しゅんこう)後ちょうど50年、黒川の意図に反してカプセルは〝新陳代謝〟のように交換されることはなく、雨漏り、給湯の停止など劣化も進行し解体に至った。

本書は、全140のカプセルのうち114カプセルを掲載。内部写真400点超のほか実測図、鈴木敏彦・工学院大教授らの論考や専門家による対談を収めている。

中でも圧巻は、カプセルの内部写真である。雨漏りのため内装が剝離して痛ましい姿になっているものもあるが、オープンリールのテープデッキが竣工時そのままに使われていたり、茶室やオフィスに自由に改装されていたりと、思い思いの内装を楽しんでいる姿が活写されている。

まだ使用中の住人の姿が写った写真を見ると、若い女性の住人が多い。個性的なインテリアから、カラフルな装飾を目いっぱい楽しんでいる人まで実に多彩である。近代建築が一般市民の理解を得られずに次々と解体されている不条理に日頃、心を痛めている身としては、近代建築の典型のようなこのビルが、市民に注目され、特に女性に愛好されていたのは実に驚くべきことである。

本書を企画・編集した「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を主宰する前田達之氏は、人生を懸けてこのビルの保存再生に打ち込んできたという。自身でカプセル15個を所有したのは、一人でも多くの住人の意思を反映して保存を実現するためだった。

長年の努力もタワーの存続はかなわなかったが、いま彼が考えていることは、解体後、取り外したカプセルを世界中の美術館に寄贈したり、「泊まれるカプセル」に再生したりするなど、カプセルがさらに生き延びる道の模索である。

老若男女をひきつける魅力的な建築、黒川がここに込めた思いとはなんだったのか、執拗(しつよう)なほどに撮られた写真がその秘密を教えてくれる。

評・小川格(建築書編集者)

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