主張

ツイッター買収 言論の自由は責任を伴う

「言論の自由」とは、何を言っても構わないと無制限に野放しを認めたものではない。

例えば日本の憲法では21条で「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定する一方で、13条で「自由」の範囲を「公共の福祉に反しない限り」と制限を求めている。

虚偽(フェイク)情報で人心を惑わし、憎悪(ヘイト)表現で他者を傷つけるような言動には、権利としての自由を叫ぶ資格を与える必要はない。

世界的大富豪で米電気自動車大手テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が短文投稿サイトのツイッターを買収する。マスク氏はかねて「言論の自由を守る」と訴えてきた。買収後はツイッターの投稿管理を緩和する方向とみられている。

ツイッターは、トランプ前米大統領のアカウントを永久凍結している。トランプ氏の投稿に「暴力賛美の警告」や「事実誤認の注意喚起」などを表示し、暴力を扇動するリスクがあるとして永久凍結に至ったものだ。マスク氏がこの問題をどう扱うかは不明だが、トランプ氏はツイッターには「戻らない」と表明している。

交流サイト(SNS)を巡っては、新型コロナウイルスやワクチンに対する問題投稿が相次ぎ、ロシアのウクライナ侵略では国家主導とみられる虚偽情報が氾濫している。「自由」の名の下に放置できる状況にはない。

欧州連合(EU)は23日、巨大ITに虚偽情報やテロの扇動、児童ポルノといった違法コンテンツの排除を義務付ける「デジタルサービス法」案で合意した。

国内では28日、東京・池袋の乗用車事故で妻と娘を亡くした遺族の男性をツイッター上で中傷したとして、愛知県扶桑町の男を侮辱容疑で書類送検した。政府は侮辱罪の厳罰化を検討している。

残念ながらネット空間は匿名の悪意に満ち満ちている。「悪貨は良貨に駆逐される」との楽観論はもはや聞かれない。

悪いのは書き込む側で、掲示板、伝言板に罪はないとする意見もあるが、駅の伝言板だって読むに堪えない文言は気づいた駅員が消していた。

「言論の自由」は、これを行使する責任を伴う。マスク氏にはその理解を求めたい。

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