金メダルだけが柔道か 井上康生氏「ブランド価値を高めたい」

柔道のブランド向上へ、最高責任者に就任した井上康生氏
柔道のブランド向上へ、最高責任者に就任した井上康生氏

東京五輪で柔道日本男子監督を務めた井上康生氏が、柔道のブランド価値向上を目指した活動に着手している。昨年秋、全日本柔道連盟が新設した「ブランディング戦略推進特別委員会」で最高責任者のチーフストラテジーオフィサーに就任。産経新聞のインタビューにオンラインで応じ、柔道の間口を広げる取り組みの必要性を強調した。

「いつも頭を抱えながら、悩みながらいろいろと勉強させてもらっています」。オンライン取材の画面で笑顔を見せた井上氏はこう語った。東京五輪後、強化の最高峰に位置する日本男子監督を退任し、柔道の価値向上の最前線に立つ覚悟で新ポストに就いた。

「選択肢や価値観が多様化する現代社会において、柔道がどのような役割を担い、価値を提供できるのか。さまざまな意見を聞きながら社会貢献を目指していきたい」。井上氏は就任直後にこうコメントした。

井上氏に柔道界の現状を改めて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「歴史的な背景でいえば、『一つの観点』にこだわりてすぎたために、(価値を)うまく引き出せなかった現状があるのではないかと感じるところがある。継承と同時に、時代の変化に合わせた新しい何かが付け加えられてくることが大事な要素だと思っている」

日本柔道は、五輪競技の中でも金メダル獲得への期待が高く、日本代表の選手たちは厳しい鍛錬を積んで期待に応えてきた。井上氏自身も2000年シドニー五輪で金メダルを獲得し、監督に就任した16年リオデジャネイロ五輪では全階級メダル、東京五輪は史上最多5階級での金メダル獲得に導いた。

五輪での頂点に立つための「強化」は、井上氏が「一つの観点」と評した部分に含まれる。日本柔道が五輪で金メダルを量産しても、競技人口は減少傾向にある。井上氏は「世界最高峰の戦いに勝つという期待に応えていくことはもちろん、大事なことです。しかし、誤解を恐れずに言えば、五輪の金メダルは『点』にすぎない」と語り、別の観点も、ブランド価値の向上には必要ではないかと投げかける。

その一つとして目を向けたのが、子供たちやシニア世代と柔道の「接点」の拡大だ。

「道場の畳はすごく安全で、子供たちが走り回ったり、転げ回ったりするにはすごく適している。公園でのキャッチボール禁止など、遊び場が制約されている子供たちに、遊びの部分を柔道に取り入れて子供らしく遊べる環境があってもいい」

シニアについても「高齢者が健康で長生きできるために運動する場としても、柔道が還元できるものはあると思っている」という。

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