地形・海流、費用は億単位 観光船引き揚げに課題

北海道・知床沖で遭難した観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」の船体は、「カシュニの滝」から西北西約1キロの沖合の、水深約120メートルの海底で見つかった。家族からは船体引き揚げと船内捜索について強い要望が出ているが、技術面や費用、波の状態など課題が山積し、引き揚げには、数カ月を要する可能性もある。

事前の調査

沈没船の引き揚げは「サルベージ」と呼ばれ、費用は船主の負担や保険金で賄われるとみられ、専門的な機材を持つ業者が担う。知床遊覧船の桂田精一社長は、4月27日の記者会見で「保険会社への相談やサルベージ会社に問い合わせをしている」と説明している。

海上保安庁や国土交通省は現時点で、カズ・ワンの船体引き揚げについて「具体的なスケジュールなどは決まっていない」としている。

一般社団法人水難学会の斎藤秀俊会長は「深さ的に作業は問題ない」とするが、引き揚げの前に船体の状況や海底近くの潮流、地形についてまずは調べる必要があるとする。知床半島沖の周辺の海は潮の流れが複雑で、浅瀬や岩礁地帯から急に100メートルを超える深さになる急峻(きゅうしゅん)な地形だ。

現在、海上自衛隊と海保は、それぞれが水中カメラ1台ずつを交互に投入して確認を進めている。潮流が速い海中でケーブルが絡まる恐れがあるため2台同時は使えず、真っ暗な海中での調査に時間がかかる可能性がある。

海流の速さが難点

沈没船の引き揚げに詳しい信太(しだ)商店の信太裕介社長によると、通常、水深100メートルを超える海中の作業では、母船で水中ドローンを操作し、船体にワイヤをかけてクレーン船でゆっくりつり上げるという手順で行うという。

信太さんは「日本のサルベージ会社は優秀で1千メートルの引き揚げ実績もあった」とするが、今回のケースでは海流の速さが難点になると指摘する。

カズ・ワンは船体が軽いため、引き揚げる際に海流に「たこのように引っ張られるイメージ」(信太さん)。ワイヤが切れる可能性もあり、大型船で数種類のワイヤを組み合わせる必要があるという。

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