主張

観光船事故原因 前兆の見逃しが許し難い

北海道・知床半島の羅臼港沖合を捜索する漁船や観光船=4月29日午前
北海道・知床半島の羅臼港沖合を捜索する漁船や観光船=4月29日午前

重大事故には、必ずその前兆というべき事象がある。あの時この問題に正しく対処していれば、不備を明らかにしていればと後悔したときには、すでに悲劇的な結果を招いている。

北海道・知床半島沖で遭難した観光船の事故でも、信じ難い「前兆」が次々発覚している。

観光船の運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長が会見し、波浪注意報が出ていた当日の運航は海が荒れれば引き返す「条件付き運航だった」と述べた。

国土交通省によると、運航会社の安全管理規程では、港を出るときは基準内であっても途中で基準を超える恐れがある場合には出航できないと定めている。

斉藤鉄夫国交相は「条件付きはあり得ない」と述べ、「当事者意識の欠如、責任感の欠如だと思う」と桂田社長を批判した。同社の条件付き運航は常態化していたとの証言もある。

同社の無線用アンテナが破損していたことも明らかになった。桂田社長は「携帯電話や他社の無線とのやりとりが可能だったため出航をやめなかった」と説明したが、衛星携帯電話も故障で修理中だった。事故2日前の定期点検では、衛星利用測位システム(GPS)で船の位置情報や水深をモニターする「GPSプロッター」が観光船から取り外されていた。

事故船舶は昨年も2度、座礁などの事故を起こしており、船長の海洋における経験不足を指摘する声も他社からあがっていた。

会見で事故当日の出航判断を改めて問われた桂田社長は「今となれば、判断は間違っていた」と述べたが、事故が起きなかった方が不思議である。

労災事故の経験則として知られる「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、300件の異常があるとされる。

運航会社や船長にはこれらの前兆を見逃さず、重大事故につながらないよう細心の注意を払う必要があるが、その能力も意欲も常識的判断力もないなら、国交省や海上保安庁の監査や設備要件の強化に再発防止を託すしかない。

桂田社長は「お騒がせして大変申し訳ありません」と述べて土下座を繰り返した。謝罪すべき理由は「騒がせた」ことではない。被害者家族の怒りは当然で、誤った土下座には不快感しかない。

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