不登校などを防ぐため児童生徒らの心理的なサポートを担うスクールカウンセラー(SC)について、文部科学省が2月、課題解決に向けて保護者らに助言をするよう、都道府県教委と政令市教委に求めていたことが29日、分かった。保護者の話を聞くだけでアドバイスをしなかったり、教員と情報共有をしなかったりするSCの存在が、不登校の専門家からも問題視されていた。
SCの配置は平成7年度に始まり、文科省はその職務を「不登校や、いじめなどの問題行動の未然防止、早期発見および対応」などとする。具体的には、児童生徒にはカウンセリングを行い、問題の原因を見立てた上で、保護者と教職員に課題解決に向けた助言をするようガイドラインなどに明記。教職員らとともに「チーム学校」の一員として児童生徒を支援するよう求めている。
しかし、同省が昨年10月に設置した不登校に関する有識者会議で、職務内容を実行できていないSCがいるとの指摘があり、改めて周知が必要と判断。2月9日付の事務連絡で、「SCが助言を行わなかったり、児童生徒に関する情報を担任教諭らと共有しなかったりするなどの指摘がある」とし、各教委と学校に対し、チーム学校としてのより効果的な支援の促進を求めた。
文科省の調査で令和2年度の不登校の小中学生は19万6127人と過去最多を更新。財務省は昨年度、各省の事業を調べる「予算執行調査」で、SCについて「資質の向上が最重要事項」と指摘している。
「古典的手法」の改革を
子供への対応に不安を覚えたり行き詰まったりした保護者にスクールカウンセラー(SC)が助言をするよう、各教育委員会は採用時などに職務内容を説明している。一方で、臨床心理士としてのカウンセリング手法を援用し「助言しない」と決めているSCもおり、個々のSCの意識変革が求められている。
兵庫県内の会社員の女性(45)は昨年、勉強や習い事への意欲をなくしていた当時小学3年の長男(9)についてSCに相談した。だがSCは女性の悩みに「心配ですね」と同調して話を聞くだけで、女性は「無料のカウンセリング体験という印象。仕事を休んでまで相談することはもうない」と話す。
SCは、臨床心理士や精神科医などの有資格者らから都道府県教委と政令市教委が採用。文科省によると、現在のSCの大半は臨床心理士の資格を持つ。
臨床心理士が病院などで行うカウンセリングでは、相談者が自分の抱える問題に自ら気づけるよう、話に傾聴して共感を示し、内省を促す手法が主体とされる。一方、学校で働くSCには問題解決に向けた助言が求められているが、岐阜県の女性SC(50)は「古典的な心理療法しかできず、助言しないSCが本当に多い。相談者の期待を裏切っている」と嘆く。
背景要因として指摘されるのが、病院などでのカウンセリングを前提に臨床心理士を養成する大学院のカリキュラムだ。SCの養成を掲げるある大学院の教授でさえ「臨床心理士は助言する立場にない。(学校でも)保護者が自ら気づくよう促すだけだ」と話した。近畿圏の男性SCは「不登校の悩みであれば、保護者に『待ちましょう』としか言えない」と打ち明けた。
元中央教育審議会副会長の梶田叡一氏(心理学・教育研究)は「これほど理想と実態がかけ離れている以上、制度を抜本的に見直し、養護教諭のように専門のカリキュラムで養成する必要がある」と指摘。教委に対しては「税金を使ってSCを配置しているのだから、不登校の減少など目に見える結果を示すべきだ。SCの研修により力を入れてほしい」と求めた。(藤井沙織)