ビブリオエッセー

投げたのは砲弾ではなく… 「そらいろ男爵」ジル・ボム文 ティエリー・デデュー絵 中島さおり訳(主婦の友社)

ロシアによる侵攻が始まってから、毎日目にするウクライナのニュース。悲惨な映像に胸を痛め、一日も早い終戦を願いながら、どこかうしろめたさを感じる。日本で普通の生活を送っていることに。コロナ禍の自粛生活から抜け出し、楽しみを求める自分に。

募金をしてもうしろめたさは消えず、さてどうしたものかと思案していたところ、この絵本を見つけた。帯に「第一次世界大戦開戦から100年目、2014年にフランスで刊行」「サン=テグジュペリ賞絵本部門受賞作」とある。『星の王子さま』が脳裏によみがえった。

時代は100年ほど前。主人公の男爵はサン=テグジュペリと同じ、飛行機乗りだ。自家製の、そらいろに塗った飛行機で空を飛び、鳥を眺めるのが大好きだった。ある日、男爵も戦争に駆り出されることに。

でも男爵は、砲弾の代わりに〈あるもの〉を飛行機に積み込んだ。それは…本。自宅の蔵書から、はじめは重い百科事典、それからロシアの小説。『戦争と平和』を敵の陣営では隊長が夜通し読んで戦いはストップ。その後は歴史物語から料理、思想、天文学、詩集とあらゆるジャンルの本を敵の陣地へ落とした。

それらを拾い読みしてあまりの面白さに戦意を喪失する兵士たち。男爵はさらに工夫をこらし、小説の前半を味方に、後半を敵陣に落とし、互いが話をするきっかけを作った。次々に名案を繰り出す男爵はラストで素敵な「落としもの」を思いつく…。ジーンと胸を打たれた。

この絵本に私たちにもできることのヒントがあるような気がする。と言うと笑われそうだがひとりひとりがそらいろ男爵になり、〈砲弾〉ではなく〈心ゆさぶる何か〉で和平へ導けないだろうか。男爵を知って、少し心が晴れた。

長崎県島原市 おーちゃん(52)

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