黄綬褒章

地図で命救えることも 国土地図社長、稲垣秀夫さん(76)

「地図の使い方次第では、人の命を救えることだってある」と語る稲垣秀夫さん=東京都新宿区 (竹之内秀介撮影)
「地図の使い方次第では、人の命を救えることだってある」と語る稲垣秀夫さん=東京都新宿区 (竹之内秀介撮影)

政府が28日発表した春の褒章で、東京都内からは、黄綬褒章に19人、紫綬褒章に12人、藍綬褒章に47人が選ばれた。この中で、黄綬褒章を受章した地図調製業の国土地図社長、稲垣秀夫さん(76)=新宿区=に喜びの声を聞いた。

炭とペンで線を引いた新人時代から、もう半世紀。デジタル化や空撮用ドローンの登場で地図を取り巻く環境は大きく変わったが、「紙で持ち歩く人が減っただけで、生活を支える地図の価値は何も変わらない」と、自負は揺るがない。

長らく測量業界で働き、平成14年に国土地図の役員から「営業を活性化したいので力を貸してほしい」と誘われて入社した。同社は当時、紙の地図の需要が減ったために経営が不安定になっていた。そこで「地図屋の仕事は1つだけじゃない」と土地の脆弱性を調べる地理調査を請け負ったり、空中写真測量をできるようにしたりと、業務の多角化で業績を黒字に転換させた。

大学は文系で、業界に入った当初、製図の知識は皆無に等しかった。だが、測量部門に配属されたのがきっかけで、自らの足で土地を歩き、線を引く製図の面白さに目覚めた。先輩の後ろ姿を見て、製図道具の使い方を徐々に習得。「デジタル化で製図作業は便利になったが、一番正しい情報は現場に行かなければ得られない」が持論だ。

近年、力を入れて取り組んでいるのが防災啓発活動。同社ではハザードマップを作っているが、住民の求めがあれば、その活用法を直接教えに行くなど、理解を深めてもらうための努力を惜しまない。阪神大震災や東日本大震災で、被災地を歩いて測量調査に当たった経験を基に、「地図の使い方次第では、人の命を救えることだってある」と力を込める。

今回の受章については、「最初は人違いかと思った」と謙遜しつつ、「これまでの取り組みを誰かが評価してくれたのかな」と頰を緩める。長年の経験を生かし、今後も地図の可能性を探り続けるつもりだ。(竹之内秀介)

春の褒章 688人20団体

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