「なぜもう少し早く連れてきてくれなかったのだろう」。日本大学医学部付属板橋病院(東京都)で救急医だったとき、何度そう思ったかしれない。相手は運ばれてきた患者を担当する在宅医だ。病状を詳しく知りたくても電話でつながることはまれで、話せるのはたいてい訪問看護師やケアマネジャー止まりだった。
茨城県那珂市の救急病院、小豆畑(あずはた)病院の院長、小豆畑丈夫医師(52)は勤務医だったころ、在宅医療を受ける患者が急変したときの対応に不満があった。父から継いだ自分の病院でも同様の経験をした。同じ病院の在宅担当医との間に壁はないが、医療機関が異なるとかみ合わないのだ。
患者の処置、遅らせる「心の壁」
「同じ病院にいるような仕組みはできないものか」。そう考えた小豆畑医師は平成27年、診療所グループ「いばらき会」に連携を持ちかけ了解を得た。40人の在宅医を抱える県内「大手」だ。患者の容体が急変すればすぐ病院に連れてくる、その際は医師どうしで話す-ことを確認。退院時にも患者家族と在宅側、病院側スタッフが話す場を持つとし、一堂に会しての勉強会など顔を合わせる機会を多く設けた。
この「一つの病院連携」は確実に成果が出た。連携前の27年、いばらき会の紹介で小豆畑病院に来た患者は37人で6人が亡くなった。連携後の28年、患者数は97人に増えたが死亡は2人に減った。入院率は24%減、平均入院日数も2週間短い約22日になった。重症化しないうちに来るため、回復も早くなったのだ。
脳梗塞の後遺症で在宅医療を受けていた90歳の男性が、腸が壊死する恐れもある鼠径(そけい)ヘルニア嵌頓(かんとん)で救急搬送されたケースがある。緊急手術が必要だったが、高齢ゆえ家族は判断に迷った。在宅医が、執刀する医師はこの手術に慣れていることも説明し、家族は手術を受けることを決断した。