露軍のウクライナ南部攻略 隣国モルドバ波及に懸念

ロシア軍によるウクライナ南部への攻略が、旧ソ連圏の隣国モルドバに波及することへの懸念が高まっている。同国内の親ロシア派支配地域で不透明な爆破事件が相次ぎ、露軍がロシア系住民「保護」を口実に介入するのではないかと警戒するためだ。露軍がモルドバの親露派地域からウクライナ南部への攻撃に乗り出すとの見方も浮上している。(黒川信雄)

爆破事件はモルドバ東部のウクライナ国境沿いにある親露分離派地域「沿ドニエストル」で25、26日に発生した。爆破されたのは治安機関施設やラジオ局の鉄塔。詳細は不明だが、沿ドニエストル当局は一方的にウクライナの関与をほのめかす発言をした。27日にはウクライナ側から銃撃があったとも主張した。

沿ドニエストルは1990年にロシア系住民が一方的に独立を宣言した。親露派勢力はモルドバが91年にソ連から独立を宣言した後、露軍の支援を受けてモルドバ政府軍と衝突し、92年に停戦した。約1500人とされる露軍が残留し、約1万人規模とみられる独自の軍も保有するが、国際的に国家承認はされていない。

露軍幹部は22日、ウクライナ侵攻が第2段階に入ったと主張し、「(ウクライナ)東部、南部を完全に支配すること」が狙いだと発言。その際、南部の制圧は「ロシア語話者が抑圧されている沿ドニエストルへの道を開く」と言及した。

ロシア系住民への「抑圧」との表現は、その救済を口実にウクライナを侵攻したロシアの主張と酷似している。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は「ロシアは沿ドニエストルの不安定化を狙っている。もしウクライナが負けたら、露軍は翌日、(モルドバの首都)キシニョフに来るだろう」と警告した。

爆発事件を受け、ロシアが沿ドニエストルから現地に駐留する露軍や沿ドニエストルの軍を動員して、ウクライナ南部を攻撃する可能性も指摘されている。

米シンクタンク「戦争研究所」は26日、沿ドニエストルでの一連の事件をロシアの偽装だと分析した上で、事件を口実に、沿ドニエストルの露軍がウクライナ南部オデッサに限定的な攻撃を行いうるとの見方を示した。日本在住のウクライナ人政治学者グレンコ・アンドリー氏は、露軍が沿ドニエストルの軍をオデッサ攻撃に参加させる可能性もあると指摘した。

モルドバの現政権は親欧米路線をとるが、経済的に対露依存が高い。ウクライナ侵攻には「中立」の立場をとるが、自国領内からウクライナが攻撃される事態になればロシアに強い態度をとらざるを得ず、「モルドバは苦しい状況に置かれる」(グレンコ氏)のは必至。親欧米派と親露派の対立が続く国内の情勢も不安定化する恐れがある。

モルドバ 1991年8月にソ連からの独立を宣言。人口は推計402万人(沿ドニエストル含む)。1人当たりの国民総所得は4560ドル(約58万円)で欧州最貧国の一つ。国内では親欧米派と親露派が政治的に対立している一方、経済面ではエネルギーの9割、貿易の多くをロシアに依存。ウクライナから43万人超の避難民を受け入れている。

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