論壇時評

5月号 独立自衛の安保環境整備急げ 論説委員・岡部伸

4日、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで、兵士に付き添われて視察するゼレンスキー大統領 (ゲッティ=共同)
4日、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで、兵士に付き添われて視察するゼレンスキー大統領 (ゲッティ=共同)

国際法を無視して始まったウクライナへのロシアの軍事侵略は、ロシア軍による民間人虐殺が次々と明らかになり、深刻な人道危機に発展した。戦後、世界で尊重してきた普遍的価値に挑戦状をたたきつける蛮行を、国際社会は結束を強化して止めなければならない。ロシアのみならず、覇権を狙う中国と対峙(たいじ)する日本は何をすべきだろうか。

「今回の侵略行為によって冷戦終結後の夢は砕け散った」。東京大学東洋文化研究所准教授の佐橋亮は『中央公論』で嘆息する。

西側では米国が卓越したパワーを発揮し、欧州は旧共産圏諸国に拡大し、統合深化し、中国とロシアも改革が進み、「世界は国境を越えて深く結びつき自由で進歩的な社会が拡大していく」という「国際協調の時代」が到来する期待があった。

だが、「冷戦の終焉(しゅうえん)は、『偽りの夜明け(フォールス・ドーン)』に過ぎなかった」。京都大学名誉教授の中西輝政は『文芸春秋』で嘆く。冷戦後、約30年間、世界が新たな国際秩序を確固たるものにできなかったことに根本的要因があり、冷戦に勝利した米国が「あまりにも不遜で、国際政治のロジックを無視した『一極主義』に囚(とら)われてしまった(中略)。これは大きな誤り」と中西は米国の責任を問う。

さらに「国際社会の無力さをありありと露呈」したと嘆く。核大国ロシアが核の威嚇を伴う決意で非保有国への侵略戦争を始めると、誰も止められない可能性が出てきたからだ。中西は、「核戦争のリスクは一九六二年のあの(キューバ)危機よりはるかに高い」と警告する。

東京大学名誉教授の山内昌之は『Voice』で、「最大の問題は、アメリカやNATOの合意形成や決断の前に、ロシアのペースで戦争が始まったこと」と提起し、「ロシアのように核を保有し、国連安保理の常任理事国が周辺国に侵攻した事実が生じると、高い確率で別の機会に同様な事態が生じることを示唆している(中略)。台湾有事が想定される」と警鐘を鳴らす。さらに中国の習近平国家主席が台湾侵攻を目指しており、「ウクライナを広い意味で『守る』ことができなければ、防御力と信頼感への懐疑は日本はじめ東アジアにも及ぶ」と戒めた。

核保有の中国の脅威に直面している日本はウクライナ戦争が尖閣有事や沖縄有事の導火線になりうると考えねばならない。

「すでに第三次世界大戦は始まった」と『文芸春秋』で、分析するフランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッドは、「反トランプで、断固たるロシア嫌いのネオコンもいて、破滅的な対外強硬策を後押し」する米国の行動に〝危うさ〟があると指摘。「米国に頼り切ってよいのか。米国の行動はどこまで信頼できるのか。こうした疑いを拭えない以上、日本は核を持つべきだ」と日本が独立して核保有する必要性を説き、「日本が核を持つことで、米国に対して自律することは、世界にとっても望ましいはず」と訴える。

参考にすべきは突如として覚醒したドイツだ。躊躇(ちゅうちょ)していた国防費GDP比2%超への増大や天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の凍結、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からの排除など制裁を決めた。ジャーナリストの櫻井よしこは『WiLL』で、「平和主義の呪縛に囚われた、かつてのドイツからは想像できない決断です。プーチン氏という『力の信奉者』から国を守るために必要なのは、理を尽くした交渉ではなく軍事力にほかならない―ショルツ首相の気づきが、ドイツを一夜にして変えてしまいました」と絶賛する。

山内も『Voice』で、左派主導の「ドイツの主要政党が国防政策を大転換したこと(中略)。戦後伝統の『何よりも平和主義』を転換した」ことに驚かされたとし、「日本の政党政治はこの緊張感あふれる即応能力と現実感覚に学ぶ点が多いだろう」と与党で公明党、野党で立憲民主党に創造的変換を期待し、「日本の安全保障環境の総合的な見直しを図る時機が到来した」と主張する。

中西も『文芸春秋』で、ロシアより困難な中国と対峙する日本の「中心課題が、この米中対立にある」とし、中国は「蛇がくねるような、とらえどころのないやり方で徐々に日本を威圧し、日米の分断を狙ってくる」と予測し、「ドイツのような防衛費の大幅な増額と(中略)、軍事力、少なくともアメリカの支援が届くまでは独力で耐え抜けるだけの通常戦力体制を整えるべき」と提言する。

自分の国は、自分で守らなければならない。日本は、非核三原則や専守防衛に縛られず、核武装を含む独立自衛の防衛力を強化することが焦眉の急だ。

ロシアとの軍事、経済的結びつきから東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどアジア各国などが制裁に距離を置くが、佐橋は『中央公論』で、「日本ほど、自由主義に根ざした国際秩序に向けて諸国を説得しうる国はいない」と説く。アジア唯一の先進7カ国(G7)の日本は台湾、韓国や東南アジアの国々を説得して連携を深めるべきだ。

権威主義国家の中露が枢軸化しないよう、世界が結束する必要がある。中西は、「日本はアメリカや豪州との緊密な同盟と共に、G7諸国や韓国、台湾、場合によるとASEAN諸国やインドも含めた大きな『有志連合』の形成に力を尽くし、中国とロシアを抑止していかねばなりません」と自由や法の支配など普遍的価値観を掲げ、新たな国際秩序構築を主導すべきだと唱える。日本は、民主主義国が結集する扇の要の役割を果たしたい。(敬称略)

=次回は5月26日掲載予定

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