「飛鳥美人」壁画が描かれた高松塚古墳(奈良県明日香村)の発掘から50年。空前の古代史ブームを巻き起こした一方で、カビによる壁画劣化や石室解体などに翻弄され続けた。この間、主役は常に壁画だった。昭和47年の発掘に学生として参加した森岡秀人・県立橿原考古学研究所共同研究員(70)は「石室や墳丘も含めたすべてが高松塚。壁画だけではない」とし、50年を機に、当時の発掘現場を撮影した写真を講演会などで公開。多くが墳丘にかかわるものだ。「壁画がきれい、すごいなで終わってほしくない」との思いがある。
被葬者の慰霊祭
発掘は、同研究所や関西大の学生を中心に約1カ月間行われた。同大2年生だった森岡さんらが大阪から現地に入ったのは3月1日。朝、発掘用の器材を担いで電車に乗り込んだ。ちょうど通勤ラッシュ。「測量機器の三脚が長く、周りの乗客にぶつかって『痛い、痛い』と言われた」と懐かしんだ。村に着くと一面の銀世界だった。森岡さんの手元には、翌日に撮影したうっすらと雪の残る高松塚古墳の写真がある。