政府がタイとの間で、日本からの防衛装備輸出に向けた「防衛装備品・技術移転協定」を締結する方向で調整に入ったことが27日、分かった。岸田文雄首相は29日から東南アジア・欧州歴訪でタイ訪問を予定しており、両政府はこれに合わせた協定署名を目指す。強大な経済力と軍事力を背景にして東南アジアで影響力を強める中国を念頭に、安全保障協力のネットワークを強化する狙いがある。複数の政府関係者が明らかにした。
タイ政府は自衛隊の哨戒機や救難飛行艇などに関心を持っているとされる。協定締結後、どのような装備協力が可能か当局間で協議する。
両政府は平成29(2017)年11月に防衛装備品・技術移転協定に関して協議入りすることで合意していた。日本企業が30年に目指したタイ空軍の防空レーダー受注には失敗しているが、令和元年11月には河野太郎防衛相(当時)とプラユット首相兼国防相との会談で防衛協力・交流に関する覚書に署名している。
タイは、アジアにおける米国の同盟国5カ国の1つ。自衛隊は米軍とタイ軍が共催する多国間軍事演習「コブラゴールド」に参加を続けており、日タイ間で人道支援・災害救援分野の協力も進めている。日本は防衛装備に関する協定をフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアとの間で締結しているが、タイとは締結していなかった。
タイは2014年のクーデターで米国との関係が悪化。米政府が昨年12月に開催した民主主義サミットにも招待されていない。この間、タイは中国からの武器輸入が米国からの輸入を上回り、17年にはタイ海軍が中国製潜水艦を購入する契約を結んだ。潜水艦はドイツ企業がエンジン供給を拒否したことで計画は頓挫しているが、日本政府関係者は今回の装備協定締結で「タイを日米側に引き寄せる効果を狙う」と語る。
木原誠二官房副長官は26日の衆院議院運営委員会理事会で、首相が4月29日から5月6日までの日程でインドネシア、ベトナム、タイ、イタリア、英国の5カ国を訪問すると説明した。