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谷垣禎一(25)社会復帰へリハビリ開始

自転車柄のネクタイにかけては「日本有数のコレクター」を自負する
自転車柄のネクタイにかけては「日本有数のコレクター」を自負する

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《平成28年秋、1カ月半におよぶ集中治療室での生活を終え、東京都渋谷区の「初台リハビリテーション病院」に転院した》

集中治療室では、ほとんどベッドに寝たままの状態でした。一日中パジャマを着て、栄養は点滴で補給していました。手をうまく動かせなかったので、病院食に移行後も自分で食べることはできませんでしたし、歯磨きなども自分ではできませんでした。ところが、リハビリ病院に入ったら、治療方針ががらっと変わったんですね。転院してきたとき、看護師さんにこんなことを言われました。

「自分でできることは自分でしてください。一日中パジャマで過ごすのはやめて、朝起きたらまず着替えましょう。顔はできるだけ自分で洗い、歯磨きやひげそりも自分でしてください。食事はベッドの上ではなく、自分で車いすを動かして食堂へ行って食べてください」

自分でできることは自分でする―。それは要するに、病院以外の場所でも暮らしていけるようになることです。つまり看護師さんは、私が自宅に帰ってからも暮らしていけるようになるためのステップを説明してくれたわけですね。さらに別の言い方をすれば「社会復帰」への過程を示されたということです。


《自らの社会復帰を考える中で、ふと法相のころの仕事を思い出した。法務省は罪を犯した人の立ち直りを手助けし、職業訓練などを行って、健全な社会人として生きていくための支援をしている》


看護師さんの話を聞いて「どこかで聞いたことがあるな」と思いました。刑務所や少年院に収容された者がやっていることとよく似ていたのです。

受刑者らも社会復帰をしようと思ったら、自分のことは自分でやる必要があります。つまり、自発性を持って取り組まないとなかなか難しいんですね。そして、自分一人でできるなら簡単だけど、そうではないから、いろんな人の助けを借りるわけです。私も理学療法士や作業療法士らの助けを借りています。

障害者と犯罪者の社会復帰に向けた取り組みは、言ってみれば精神は同じで、極めて共通の面があると思いました。こういう言い方をすると嫌がる人もいるんですけどね。

それを理学療法士の団体の方に話したら、こんなことを教えてくれました。「『リハビリ』には2つの意味があります。一つは、傷痍(しょうい)軍人らが身体機能を回復させて社会生活に復帰するための訓練。もう一つは、罪を犯して刑務所に入った人が社会に復帰するための訓練。どちらも『リハビリ』です。だから、谷垣さんがお感じになったことは正しいんですよ」

「ああ、そうか」と思いました。社会復帰をしようと思ったら、自分でできることは段階的にやれるようにしていかなきゃいけない。しかし「俺はもうどうでもいいんだ」と捨て鉢になってしまったら、なかなか難しい。「頑張らなきゃ」という気持ちを持たなきゃだめです。

その上で、助けてくれる人がいなきゃいけないし、社会復帰を目指す人たちを支援する公的制度もなきゃいけない。それなしに「はい、これで終わりですから、後は全部一人でおやりなさい」では、それから先、なかなかやっていけませんよね。「自助・共助・公助」のバランスが大事。そういうこともあって、政界引退後、全国保護司連盟の理事長を引き受けました。


《入院中は1日3時間、リハビリに取り組んだ》


初めは「ちょっときついかな」と感じました。作業療法士が手を動かしてくれているときに、いつの間にか寝てしまうことも多かったです。週刊誌が嗅ぎまわっていたようなので、病院内では偽名を使っていました。今でもリハビリ病院の看護師さんに突然偽名で呼びかけられてびっくりすることがあります。(聞き手 豊田真由美)

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