「レジ係」と揶揄された世界最年少首相 柔軟思想でフィンランド改革

フィンランドのサンナ・マリン首相(ロイター)
フィンランドのサンナ・マリン首相(ロイター)

北欧フィンランドで北大西洋条約機構(NATO)加盟の議論を牽引(けんいん)するのは、2019年に現職として世界最年少の若さで首相に就任した女性、サンナ・マリン氏(36)だ。ロシアと緊張関係になることを見越してフィンランドの伝統的な軍事的中立方針を転換。ウクライナ侵攻後は強い対露姿勢を打ち出し、国民の支持を得ている。(ロンドン 板東和正)

「侵攻で全てが変わった」「ロシアはわれわれが思っていたような隣人ではない」

マリン氏は露軍の侵攻を受け、紛争地への武器輸出を認めないフィンランドの伝統的な方針を覆し、ウクライナへの兵器供与を決断した。ウクライナ情勢をめぐりNATOと情報共有も進めている。

首都ヘルシンキで生まれたマリン氏は、国内の大学で行政を学んだ後、13年に27歳で工業都市タンペレの市議会議長に就任。15年に国会議員となった。

マリン氏は幼少の頃、父親のアルコール依存症が原因で、両親が離婚。母親とその同性パートナーに育てられた。学生時代は経済的に困窮し、スーパーのレジのアルバイトなどで生計を立てていた。自身の生い立ちから、ジェンダー平等や福祉の強化を訴え、若い世代を中心に支持を集めた。

人気の高さが評価され、19年に辞意を表明したリンネ前首相の後任として白羽の矢が立った。34歳で首相に就任したマリン氏は当時、「自分の年や性別については考えたこともない」と強調。若い女性の政界進出を後押しする立場を示し、多くの女性を閣僚に起用した。

ただ、若い女性首相を「政治家」として扱おうとしない海外の閣僚もいた。英紙フィナンシャル・タイムズなどによると、エストニアのヘルメ内相(当時)は19年12月、「レジ係が首相になった」などと発言。過去の経歴を理由にマリン氏を侮辱した発言と非難されたが、「政治経験が浅いマリン氏の実力に疑問を投げかけた」(ヘルシンキ市民)と力量を不安視する受け止めもあった。

だが、マリン政権は、軍事力を強化する方針を積極的に打ち出し支持を広げた。21年に国防軍の人員拡大を決定したほか、最新鋭の米戦闘機「F35A」60機以上の導入を表明。現地メディアが今年3月下旬に実施した世論調査では6割近くがマリン氏を支持している。

特に、評価が高いのは、ロシアに対する毅然(きぜん)とした姿勢だ。マリン氏はウクライナ侵攻が始まる前の昨年末、NATO加盟を申請する権利を主張。今月13日には「NATOの抑止力と集団防衛ほど国家の安全を保証する方法はない」と加盟を検討する考えを示した。フィンランドにはロシアを刺激しないよう中立を守ってきた歴史があり、マリン氏が党首を務める社会民主党も加盟に否定的だったが、同氏は所属議員や国民に加盟の必要を訴えた。

北欧情勢に詳しい英軍事専門家は、マリン氏が主導する方針転換について、「政治経験の浅さが柔軟な発想を生み、歴史にとらわれず対露関係を見直すことができている」と分析している。

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