4月28日は戦後日本の起点だ。連合国軍による約7年間の占領を終え、独立国としての主権を回復するに至ったサンフランシスコ講和条約の発効からまもなく70年を迎える。今回紹介する作家、結城昌治(1927~96年)の直木賞受賞作『軍旗はためく下に』(昭和45年刊行)は戦場の不条理などを描いた戦争小説の傑作として読み継がれているが、強調したいのは、同書誕生の背景に講和条約が関係していたことだ。
条約発効当時、結城は東京地検に勤務し、条約に伴う恩赦(確定済みの刑罰の軽減など)事務に従事していた。膨大な数に上る軍法会議の判決書を読み、「そのとき初めて知った軍隊の暗い部分が脳裡(のうり)に焼きついていた」(同書あとがき)。十数年の時を経て、小説として結実する。根底にあったのは「召集令状一枚で駆出され、虫けらのように死んだ兵隊たちの運命」を書き残さねばならない義務感と怒りだった。
収録された5作品の各題名は陸軍刑法にちなんでいる。「敵前逃亡・奔敵」「従軍免脱」「司令官逃避」「敵前党与逃亡」「上官殺害」。南方の激戦地に送られた主人公たちは、事実関係の〝曲解〟などにより処刑(一部は自殺)される。陸軍刑法に基づき処刑された場合、原則として遺族への恩給は出ないとされており、軍法会議での判決は兵隊の遺族の戦後にも暗い影を落としていた。