「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

虎党も佐々木朗へ羨望の眼差し…逆襲の鍵は藤浪の完全復活

対巨人戦で本塁打を浴び、首を傾げる阪神・藤浪=東京ドーム(撮影・松永渉平)
対巨人戦で本塁打を浴び、首を傾げる阪神・藤浪=東京ドーム(撮影・松永渉平)

佐々木朗希投手(20)への羨望のまなざしは藤浪晋太郎投手(28)完全復活の日まで消え去ることはないのでしょう。4月10日のオリックス戦(ZOZO)での完全試合、続く17日の日本ハム戦(ZOZO)での8回パーフェクトで球界の話題を独占するロッテの佐々木朗に対する阪神ファンの気持ちは複雑です。羨ましい…ウチにも〝かつて〟はすごい投手がいたのに…。今季でプロ10年目を迎える藤浪もプロ入り3シーズンまでは連続2ケタ勝利。球界を代表する投手への階段を順調に駆け上がっていたはずです。それが…どこまで続くぬかるみぞ…。藤浪を覚醒させられないままで終わるならば、阪神球団の後遺症は途方もないですね。

■佐々木朗が〝まぶしい〟

こんなことは、はるかかなたの昔、虎番記者になって以降、初めてのことかもしれません。4月10日の広島戦(甲子園球場)はデーゲーム。午後2時開始のゲームは二回表に広島の新外国人マクブルームが先制ソロを放つと、阪神打線は0行進を続けていました。試合は0対1の敗戦。試合をテレビで見ていたのですが、つまらないので違うチャンネルを回してみると、ロッテ対オリックス戦が中継されていました。

いつもなら、チャンネルは阪神戦に戻すのですが、その日は違いました。ロッテ・佐々木朗希投手がヒットどころか、四死球もエラーで出した走者さえもいない、パーフェクトピッチングを継続中! マウンドで160キロ超の直球と鋭い変化球を操る佐々木朗に目はくぎ付け。愛する⁉阪神の試合はスマホでチェックしながら、チャンネルは最後まで佐々木朗に〝固定〟されてしまいました。

数人の知人も後で聞くと同じでした。

「どうせ阪神は打てへんし、負けるやろから最後まで佐々木朗希を見たわ。すごい投手や」「メジャーで活躍する二刀流の大谷もすごいけど、佐々木朗希も匹敵するね。どうして岩手県から次々と怪物が出てくるんやろか?」などなど、出てくる言葉は称賛の二文字。

佐々木朗希投手はオリックス戦でパーフェクトピッチングを完成すると、続く17日の日本ハム戦でも8回をパーフェクト。球数が102球、試合展開も0対0ということもあったのでしょうか、九回表のマウンドには上がらずに降板。史上初の2試合連続のパーフェクトゲームを目前にしながらも降板した事への賛否両論が渦巻きました。

おいコラ! このコラムは『トラ漫遊記』なのに、いつから『朗希漫遊記』になったんや!とお叱りを受けそうですが、これほどまでにすごい投手を目の当たりにした阪神ファンは複雑な心境に陥ったと思います。書きたい、いや書かねばならないのはこのことです。

阪神にも〝かつて〟怪物が存在しました。大阪桐蔭高から2013年のドラフト1位で入団した藤浪晋太郎投手です。エースとして12年の甲子園大会で春夏連覇を達成し、ドラフトでは4球団が競合しました。当時の和田豊監督が交渉権獲得のクジを引き当て、阪神に入団。プロ3シーズンまでは10勝、11勝、14勝をマークし、このまま球界のエースへの階段を順調に駆け上がっていくだろう…と誰もが思いました。

ところが、制球難に悩み始めてそこからじり貧。2016年以降は7勝、3勝、5勝で19年は0勝。20年は1勝6敗、昨年は3勝3敗。今季は昨年に続き、開幕投手(決定していた青柳がコロナ感染)を務めましたが、まだ3試合登板で0勝1敗。コロナ陽性にもなり2軍に復帰したのが20日のことです。

また、そんなことを蒸し返すのか…と思われるかもしれません。それは百も承知ですが、それでも書きます。なぜなら、藤浪が復活しない限り、虎党の佐々木朗希投手への羨望のまなざしが消えることはなく、仮に藤浪が覚醒しないままユニホームを脱ぐ時が来るならば、阪神球団に残るダメージはそう簡単には拭い去れないと思うからです。

■問われる投手育成能力

例えば、阪神の投手育成の手腕をアマ球界の指導者は今後、どう見るでしょうか。藤浪と同期の大谷翔平は日本ハムに入団後、順調に育っていき、今では投打の二刀流で大リーグのスーパースターですね。佐々木朗希も今季がロッテ入団3年目。ルーキーイヤーは1軍登板なしで、体力作りやプロの水に慣れさせることを主眼にしていました。徐々に階段を上がり今日の姿があります。どうして日本ハムやロッテでは大型の本格派投手が順調に育ち、阪神では挫折なのか…。

前回のコラム(「泥沼の阪神は若手育成に舵を!背景には球界の動きが…」=19日アップ)では、アマ球界の指導者などに対してプロ野球12球団の育成方法やその後の選手の成績などを公布する、〝育成格付けチェック〟の動きがある-と書きました。まだ具現化されていませんが、これは日本プロ野球選手会を中心とする動きです。将来を嘱望されるアマチュアの選手たちがどの球団に入れば、能力を存分に発揮して、幸せな選手生活を送れることができるのか…の参考資料となるわけです。選手の将来を考えての『失敗しない球団選び』のマニュアル本でしょうか。

一般の学生だって、就職活動を行う際、志望する会社を選ぶ時に業界の評判や就職した人の10年後の平均収入や離職率などを知ろうとします。これのプロ野球版と考えればいいでしょうね。そして、プロ野球就職テキストが公布された時に阪神はどうなりますか? 子供の頃からの阪神ファン…だから、阪神に入りたい!もちろん、そういう若者も存在するでしょうが、入ってから苦労する、稼げない、路頭に迷う…と来ればどうですか。そうした負のイメージを払拭するには、やはり藤浪の復活しかないのです。

このままでは、阪神球団としてのスカウト活動やドラフト戦略にも大きな影響が出るでしょう。すでにその兆候は出ているともいえます。佐々木朗希がドラフト会議の目玉だった2019年のドラフト会議。阪神は奥川恭伸投手(星稜高→ヤクルト)を指名しましたが、クジが外れ交渉権はとれませんでした。当時、スカウト陣の大勢は「奥川1位」でしたが、中身の評価を取材すると「力的にも将来性も佐々木朗希の方が上だ」という編成部の幹部の声がありました。

それでも「奥川1位」に定まった背景には、藤浪の低迷が影響していたように思えてなりません。藤浪はそのシーズン、0勝で終わっています。長身の大型投手を獲得しても、うまく育てる自信がない?現場の育成能力に???…。なので無難な奥川に票が多く動いた…という推測です。やはり藤浪が復活しない限り、今後のドラフト戦略も無難に行ってしまうのでは…と心配が募りますね。

■逆襲の鍵は藤浪にあり

阪神はここにきて、ややチーム状態は上向き。それでも26試合消化時点で5勝20敗1分けの勝率2割ですね。打線では佐藤輝が3番に入り、6カード連続の本塁打。1番・近本が出塁して佐藤輝で返す…打線の流れは良くなりつつありますね。後は先発陣。藤浪がコロナ禍から立ち直り、先発ローテーションで勝ち星を積み重ねるならば青柳、ガンケル、ウィルカーソンらと安定した戦いができるでしょう。逆襲のキーパーソンもまた藤浪だ! と思いますね。

やはり藤浪…。佐々木朗希の魅力的な右腕を見れば見るほどその思いに駆られます。元祖怪物君よ、一刻も早く目を覚ませてくださいな。他球団の芝が青く見えるのは、もうコリゴリですよ。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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