風を読む

守るべきは国か、命か 論説副委員長・佐々木類

グレンコ・アンドリー氏
グレンコ・アンドリー氏

水戸市にある茨城大学の学生から電子メールをいただいた。人文社会科学部でメディア論を研究する3年生の松尾実咲さんだ。村上信夫教授の教え子である。

村上教授とは3年前に知り合った。平成7年、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教をめぐり意見交換したのがきっかけだ。

メールの内容は「守るべきは国か、命か。平和とは何か」というテーマについて、オンラインで私の考えを聞かせてほしいというものだった。ゼミで討論を続けていく際の参考にするためで、ロシアによるウクライナ侵略を契機にみなで考えたいのだという。

ゼミ生は3月、すでにこのテーマでディベートを行っていた。自分の意見とは異なる立場にたって説得力を競い合う手法である。総じて「国を守るべきだ」という意見が優勢だったという。

国よりも、目の前の命が大事であるから戦わずに降伏すべきだという意見もあった。命の大切さを否定する人はいまい。大事なことは、命を守るためにどうすればよいかを具体的に考えることだ、というようなことを話した。

ウクライナ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏はどうみるのか。彼とは3年前の終戦の日、弊社の斎藤勉論説顧問と靖国神社を参拝したことがある。

アンドリー氏は今年3月、参院外交防衛委員会に出席し、ロシアへの降伏について、「最悪の選択肢だ。ウクライナ全土で混乱と殺戮(さつりく)は続く」などと述べた。降伏すれば守れる命もあろうが、降伏しても守れぬ命はある。

ウクライナで1932~33年、ソ連の独裁者スターリンが人為的に仕掛けた「ホロドモール(ウクライナ語で飢餓による大量死)」で約400万人が餓死させられた惨状は、ウクライナ人にとって今でも記憶に新しいという。

77年前の終戦時、武装解除した日本人60万人を拉致し、6万人超をシベリア抑留で非業の死に追いやったのもソ連軍だった。

19世紀ドイツの法学者イェーリングはいう。「隣国によって1平方マイルの領土を奪われながら、膺懲(ようちょう)の挙に出ない国は、その他の領土をも奪われてゆき、ついに領土を全く失った国家として存立することをやめてしまうであろう」

ウクライナの惨劇を自分のこととして捉え、平和のために何をすべきかを若者が考える。村上ゼミの研究報告に期待したい。

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