日産自動車は25日、危険で複雑な交通状況でドライバーの代わりにシステムがハンドルやブレーキを操作し、衝突事故などを回避できる先進運転支援技術の開発を進めていることを明らかにした。2020年代半ばまでに技術開発を終えて、30年までにほぼすべての新型車への搭載を目指す。自動車大手各社は運転支援技術の高度化を進めており、競争がますます激化しそうだ。
神奈川県横須賀市にある日産のテストコース。高級スポーツセダン「スカイライン」のハイブリッド車(HV)をベースにした試作車のデモ走行が公開された。
時速60キロで直進していると、左側から突然、別の車が道路に入ってきた。衝突を避けるため、急ハンドルを切って右隣の車線に移ったのもつかの間、今度は右側から歩行者を模した人形が横断してきた。「万事休す」と思われたが、急ブレーキをかけ、人形の手前でぴたりと停止した。
このようにリスクが重なる複雑な状況で事故を回避するのは、よほどの運転技術がなければ難しいが、ドライバーは何もしていない。システムがハンドルやブレーキを操作する設定をしているのだ。
試作車は、ルーフトップに米ルミナ―と共同開発する次世代センサー「ライダー」を搭載し、物体の形状や距離などを高精度で認識する。カメラ、レーダーと組み合わせ、周囲の空間と物体の形状を正確にとらえられる。
先進的なシミュレーション技術を持つ米アプライド・インテュイションとも組み、刻々と変化する周囲の状況を瞬時に分析できるようにしている。
テストコースでは、前方からタイヤが転がってくる非常事態を想定したデモ走行も行われた。視界を塞ぐ前方の車が急に車線変更し、タイヤを模した物体が接近してくるのを試作車は感知し、素早くよけた。
このほか、地図情報が整備されていない敷地内での動運転も可能だ。ホテル玄関前へのアプローチを想定したデモ走行では徐行して確実に停止してみせた。
運転支援技術を高め、交通死亡事故の撲滅につなげようという動きは自動車業界全体で広がっている。
マツダはドライバーの状態をカメラで監視し、体調悪化などを検知して自動停止させるシステムを今年初秋に発売するスポーツ用多目的車(SUV)「CX-60」の日本仕様車に採用する予定だ。
ホンダは、歩行者が飛び出してくるリスクを人工知能(AI)が分析し、ランプ点灯で警告するなどの技術を開発。20年代後半の実用化を目指す。
日産は既に、高速道路を走行中にハンドルから手を放しても車間距離を維持したり、車線変更をしたりできる運転支援技術「プロパイロット」を実用化。26年度までに250万台以上に搭載する計画を掲げる。
自動運転の安全性を完璧に近づけるには、年間総走行距離7446億キロ分のデータの収集・分析が必要だという。
浅見孝雄専務執行役員は「膨大な作業がかかる」としながら、「最も重要なことは『ぶつからない』という高い安心感を持てることだ」として安全性能の飛躍的な向上に意欲を燃やす。(宇野貴文)