TOKYO まち・ひと物語

「聖地」で本を扱う醍醐味 明治創業の老舗古書店 「高山本店」高山肇代表(74)

古書店経営の思いを語る「高山本店」代表の高山肇さん=東京都千代田区
古書店経営の思いを語る「高山本店」代表の高山肇さん=東京都千代田区

「本の聖地」として知られる千代田区神田神保町の周辺には、およそ130店の古書店が軒を連ねている。その一角にある明治時代からの老舗「高山本店」は、歴史作家の司馬遼太郎をはじめ、さまざまな文士たちがお目当ての本を探しに訪れた店だ。4代目で代表の高山肇(はじめ)さん(74)は「本には、人が古くからさまざまな角度で見てきたことが記されている。その世界に触れることができるのが、古書店の醍醐味(だいごみ)だ」と語る。(太田泰)

靖国通り沿いの「神田古書センター」1階、「書肆(しょし) 高山本店」と書かれた白い看板が目印だ。武道や料理、能や謡(うたい)など邦楽に関連する本を中心に取り扱っている。

「地元への愛着は人一倍強いと思う」。小さいころから本に囲まれ、神保町で育ってきた。現在は区商店街連合会の会長でもあり、過去には区議を5期務めた経歴も持つ。

小説家とも交流

明治8(1875)年創業の高山本店のルーツは、福岡県久留米市。「もともとは武士を相手に弓矢の修理をしていたが、明治維新後に古書を取り扱うようになったらしい」。初代に当たる曽祖父が神保町に移り、店を営むようになったのは明治30年代ごろという。

小説家らとの交流が生まれたのは、3代目の父の代からだ。檀一雄、大岡昇平、柴田錬三郎、瀬戸内寂聴…。その中にいた一人が司馬遼太郎だった。

高山さんは学生のころに店の手伝いで、大阪府にあった司馬の自宅まで本を届けたことが思い出深いという。夜行列車で一晩かけて訪ねた学生を、司馬は「ありがとう。これ欲しかったんだ」と笑顔でねぎらってくれたという。

後年、司馬を担当する出版社の社員が、日本周辺の海流に関する本を探しに来たことがあった。

「なぜ、そんな本を」と疑問に感じたが、「(司馬が)この場所で船が沈没したらどこまで流れ着くかということを調べている」と聞かされ、衝撃を受けた。

「綿密な調査で、歴史の『隙間』を書くことが本当にすごいと感じた」。細かい部分も、あくまで科学的な視点から描き出すことにこだわる、歴史作家の真髄を目の当たりにした思いだった。

コロナ禍を越えて

神保町では書店同士が横の強いつながりを持ち、本を探すときは協力し合う関係がある。「江戸東京博物館」(墨田区)が開館する際、神保町の書店らが協力して資料収集に当たったが、「古書店街の江戸に関する本が全てなくなった」という伝説が残るほどだ。

新型コロナウイルス禍の波は古書店街にも大きな影響を及ぼしたが、工夫を凝らして乗り切ってきた。

例えば昨年には、神保町の書店を紹介するウェブサイト「ブックタウン じんぼう」をリニューアル。書店内を360度のパノラマ感覚で見られるようにするなど、時代に合わせた取り組みも行ってきた。

そうした中、コロナ禍で中止されていた「東京名物神田古本まつり」が3月、2年半ぶりに開催されたことへの喜びは大きかった。「訪れた人たちの温かい言葉で、失いかけていた自信を取り戻すことができた」

昨今の若者の本離れには寂しい思いを抱く。かつて学生が本を求めてにぎわう町だった神保町の姿を、もう一度見るのが夢でもある。「神保町の古書店は敷居が高いと感じる人がいるかもしれないが、『そんなことはないよ』と伝えたい。誰もが気軽に来て、本の魅力を知ってほしい」。そう話すと、にっこりと笑みを浮かべた。

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