「目の前に岸壁も」救命具着けず…過去に乗船の男性

観光船「KAZU Ⅰ」(知床遊覧船のホームページから)
観光船「KAZU Ⅰ」(知床遊覧船のホームページから)

世界遺産・知床の雄大な自然を堪能できると銘打ち、人気が高い観光船ツアー。今回事故を起こした「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」の運航会社「知床遊覧船」も「船でしか行けない秘境」とうたい、高確率でヒグマに出合えると紹介していた。カズ・ワンに乗船経験のある男性は陸地の岸壁にかなり接近する場面もあったと振り返り、安全性への懸念を漏らした。

「同じ事故に遭う可能性があったかと思うと言葉も出ない」。北海道苫小牧市の自営業、瀧腰(たきごし)直也さん(47)はこう話す。

瀧腰さんは令和2年9月、ヒグマを撮影するため、知床遊覧船のウトロ港と知床岬を往復する3時間のコースに参加し、カズ・ワンに乗り込んだ。同乗者は20~30人程度。船外で観賞する人は救命具を着けるよう指示があった一方、船内の乗客は着用していなかったという。

ヒグマの出没ポイントでは、船長が見どころの説明を交えながら、船を陸地に近づける動きを見せた。水深が深い場所では、岸壁ギリギリまで接近することもあり、「船長がこの海を知り尽くしていると信じていたので、不安はなかった。とはいえ、目の前に岸壁が迫る場面もあり、随分と近づくなという印象も持った」(瀧腰さん)。

一方、今回カズ・ワンから救助要請があった「カシュニの滝」付近では、それほど陸地に接近していなかった記憶がある。「2年前と同じ距離を保っていれば事故が起きるとは考えづらい。事故当日は波が高かったと聞くので、意図せず陸に寄せられてしまったのではないか」と推測する。

2年前は同業他社の複数の観光船がほぼ同時刻に港を出て、カズ・ワンの前後を他の船が並走していた。このため、瀧腰さんは事故の一報を聞き、「すぐに助けが行くだろう」と思った。だが、実際にはカズ・ワンは単独で出航しており、大惨事につながった。

瀧腰さんは「船は年季が入っていたが、サービスはとてもよかった。今は奇跡を信じて、一人でも多くの人が助かることを祈っている」と声を絞り出した。(竹之内秀介)

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