朝晴れエッセー

命のバトン・4月25日

桜の花びらが舞う頃、母は91歳の生涯を閉じ静かに息を引き取った。そして同じ日に娘の妊娠が分かった。

「きっと、ばぁーちゃんは命のバトンタッチができたから天国へ行ったんだね」。家族でそう話しながら母を見送った。

昨年12月のコロナ禍の中、娘は元気な女の子を出産した。娘にとっては初めての赤ちゃん、私にとっては初孫。楽しくも悪戦苦闘の毎日がはじまった。

「抱っこしてるから早くご飯食べて」

「お風呂は何時がいい」

娘にかける何気ない会話の私の声が母の声と時折重なる。私の子育てのとき、母も同じように言っていたからかな。

娘の子育てを手伝いながらふと、母はこんなとき、なんと声をかけてくれただろうと考える。改めて母の存在が大きくなっていく。

2月の風の強い日、娘は私の着物を着てお宮参りをした。母が私のためにそろえてくれた着物を久しぶりに出した。

着物の着付けなんて全くしたことのない私は着付けの動画を何度も見ながらまたまた悪戦苦闘! こんなことなら着付けを母にしっかりと教えてもらえばよかった。

どうやら着付けができた娘と孫は、にこやかに笑っている。澄んだ青空の中に、そんな孫娘を見ながら亡き父と一緒にほほ笑む母の姿が見えたような気がした。


木村千秋(61) 奈良市

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