囮(おとり)城 三
調略や騙(だま)し討ちの応酬に手を染めている戦国の武士たちであるが、このような停戦、降参の交渉などでは、噓はつかない。ここで大きな噓をまじえ、合意を踏みにじり、騙し討ちなどすれば――もはや何も信じられなくなり、あらゆる約束は成立しなくなる。
乱世を生きる武士であるが、斯様(かよう)な局面では一線を引いており、その線を越える武士は……ごく少数だった。
野間隆実(たかざね)以下、城兵は……隆実が毛利の重臣、熊谷信直(くまがいのぶなお)の娘婿という縁もあり、元就(もとなり)が見せた寛大さを本物と考えている。一方、陶(すえ)がおくった援軍の将、小幡左衛門(おばたさえもん)、羽仁中務(はになかつかさ)は、
『元就にはよくよく用心されよ。元就の言葉、全て虚言と思うべし』