囮(おとり)城 二
隆景は元就(もとなり)からの文(ふみ)に視線を落とす。
「父上は三島(さんとう)村上の陶(すえ)への怒りを焚きつけて味方に引き込むようにと仰せだ」
宗勝(むねかつ)は苦そうに唇を舐(な)める。
「村上武吉(たけよし)……そう生易(やさ)しい男ではありませぬぞ。大殿もむずかしいことをおっしゃいますなぁ……。毛利と陶、どちらが勝つか、どちらにつくが得か、あの男は冷静に秤(はかり)にかける。武吉は、三浦、弘中といった舟戦の巧者、陶傘下の周防(すおう)海賊・宇賀島(うがしま)衆を侮(あなど)り難き敵と見ておりまする」