書評

『あの図書館の彼女たち』 戦時の悲しみと人生賛歌

1980年代、アメリカ・モンタナ州の小さな町の少女リリーは授業中、隣家に住む孤独な老女、オディールのことを考えていた。戦後にフランスから引っ越してきたこと以外知られておらず、謎の多いオディール。でも、この町で、すてきなものが多いフランスを知っているのは彼女だけ、と思ったリリーは放課後、宿題を口実に隣家のドアをノックする。「あなたのこと、あなたの国について、話を聞かせてもらえませんか」

時はさかのぼって1939年のパリ。利用者として通っていたアメリカ図書館で、あこがれの司書となった若き日のオディールは充実の毎日を送っていたが、ナチスドイツによる侵攻で暮らしが脅かされる。食糧難、横行する摘発と暴力、そして家族の死。5年後、パリが解放されても人生の激動は続いた。

本書に登場するパリのアメリカ図書館は、2020年で創立100年。兵士向け図書サービスとして発足した実在の図書館だ。著者はこの図書館で働き、占領時のパリで司書たちの勇気に満ちた行動を知って、その実話を基に本作を送り出した。

物語には当時の女性館長をはじめ、ゲシュタポに銃撃を受けながら職場復帰したり、ユダヤ人収容所から生還したりした実在の図書館員らが数多く登場する。フィクションではあるが、彼らが遭遇した実際の出来事が重みのある背景となり、より鮮明に戦時の悲しみを訴え、勇気と絆を伝える。

戦争を知らない、青春の真っただ中で、フランスにあこがれるリリーと、戦渦のフランスで青春を費やしたオディール。あまりにも違う2人は、時にぎくしゃくしながらも交差し、ある日リリーはついにオディールの過去を知る。

著者のデビュー作は、ウクライナのオデーサを舞台とした、ほろ苦いラブコメディー(日本未訳)。そして長編第2作の本作では戦時の悲惨さを伝える。両作品を執筆した時期は、ロシアによるウクライナ侵攻など世界中が、もちろん著者自身も予想していなかったはず。

破壊された街、暮らし、人生の中から、それでも何かが生まれる―。ウクライナにもそういう未来があることを強く信じたくなる、人生賛歌の物語だ。(東京創元社・2420円)

評・河原潤子(ライター)

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