京都府の北端、京丹後市で作られている美しい「丹後ちりめん」に出会ったことから、この地で年に1度、舞踊公演を続けている歌舞伎界最高峰の女形、坂東玉三郎。5月3、4の両日、同市の京都府丹後文化会館で、3年ぶりの公演を開催する。「京丹後のちりめんは私たちの仕事と切っても切れない関係にあります。だからこそ、こちらの地で踊る意義があるのです」と玉三郎は語る。
コロナ禍で閉塞(へいそく)感漂う現代社会。丹後ちりめんに魅了されたことをきっかけに平成28年から始まった京丹後公演も一昨年、昨年と中止になった。「それでも私たちは最大限、幕を開ける努力をしないといけない」と玉三郎はきっぱり語る。
今回上演されるのは、格調高い祝儀曲「老松(おいまつ)」と、天女の羽衣伝説をもとにした「羽衣」の2曲。
「老松」を選んだのは、幕開きにふさわしい曲で、太平の世を寿(ことほ)ぎ、長寿を願う意味をもたせたかったからという。そもそもは、同名の能の詞章(ししょう)をもとに長唄舞踊にしたものだが、祝いの曲でありながら廓(くるわ)の話が出てきたりと変化に富んだ内容でもある。
「いままでは黒の衣装で踊っていましたが、今回は白で踊りたいと思っています」とのこと。
「羽衣」もまた、同名の能をもとに作られた曲。天から舞い降りた天女が、漁師に羽衣を返してもらうために舞うという内容で、いかにも能を題材にした曲らしい幽玄の美が醸し出される。気品高く優美な天女は、玉三郎の当たり役の一つだ。
実は本曲は、京丹後公演の2回目で披露していた。
「丹後の地に天女が舞い降りたという伝説もあるそうですし、この機会にもう一度、踊ろうと思いました」
同じ作品でも、上演される土地や劇場の大きさなどによって違った見え方や感じ方ができる。また、演じる方、見る方の心境によっても変わってくるのだという。
「それが演者と観客が同じ時間と場所を共有する舞台芸術の良さであり、人と人とが出会って行われる魂の交感ではないでしょうか。私たちの仕事は、『幸せ感』を提供させていただくものだと思っています」
ほかにお目見得(めみえ)「口上」も行う。
「坂東玉三郎 京丹後特別舞踊公演」の問い合わせは、同実行委員会事務局(0772・62・5200)。