「平和の風」を世界に-。扇を通して支援の輪が広がっている。紙リサイクル製品の企画開発や販売を手掛ける「カミーノ」(東京都港区)が、ウクライナ支援のための扇を制作し、売上金全額を寄付するチャリティーキャンペーンに取り組んでいる。使用しているのは広島に贈られた折り鶴からリサイクルされた再生紙。広島にとって平和の象徴である折り鶴を扇に変え、「ウクライナの人々に平和が訪れるように」と担当者は願いを込める。
折り鶴の生まれ変わり
ウクライナ支援のために制作された扇は360度開く丸い形状で、広げると長さ33センチ、直径は22センチの大きさ。柄の部分はヒノキの間伐材が使われている。
ウクライナ侵攻に抗議するとともに平和への願いを込めて作られた。扇はウクライナ国旗のカラーをモチーフにし、「PEACE」などの文字があしらわれている。限定500本。売上金全額を国連UNHCR協会に寄付することにしており、3月末にはいったん44万7千円を寄付した。
丸扇子はもともとカミーノが手掛ける折り鶴リサイクル製品の一つで、「FANO(ファーノ)」と名づけられたデザイン扇。広島に贈られた折り鶴の再生紙が使用され、平和の風を世界中に届けてくれることを願って開発された。
折り鶴リサイクル製品の収益の一部は、カミーノが取り組む社会貢献活動「ONGAESHI(恩返し)プロジェクト」に活用。
平成27年には広島市にファーノを寄贈し、平和記念式典での海外からの来賓向け公式グッズとして採用された。また、服飾デザイナー、高田賢三さん(故人)による東日本大震災の被災地支援「起き上がりこぼしプロジェクト」の原料として、折り鶴再生パルプを提供したこともある。
29年には、ウクライナのキーウ(キエフ)やチェルノブイリ原発近くの都市スラブチッチなどで、折り鶴再生紙を使ったマンガワークショップを開催。カミーノの深沢幸一郎代表(53)が現地に赴き、ウクライナの子供たちと交流を深めた。
こうした経緯もあり、広島県出身で、父親が被爆者でもあるカミーノ取締役の鍵本政彦さん(57)は「ロシアが核の使用までほのめかすような中で、何ができるのかを考えたとき、何のアクションもしないという選択肢はなかった」と語る。
ファーノが伝える物語
ファーノは、扇としての役割はもちろんだが、平和貢献や社会貢献に関心のある企業や団体から、コンサートやイベント、キャンペーンなどのノベルティーグッズとしての発注を受けるなどして、少しずつ注目を集めてきた。
ファーノが人々の心をとらえるのは、この扇が持つ物語だ。
広島市の平和記念公園の「原爆の子の像」には、国内外から年間にして約1千万羽、重さ10トン以上の折り鶴がささげられている。
「千羽鶴の塔」とも呼ばれる原爆の子の像は、2歳で被爆した佐々木禎子さんの死をきっかけに、犠牲となった子供たちを悼むための募金運動が広がり、昭和33年に建立された。
白血病で12歳で亡くなった禎子さんが生前、回復を願って鶴を折り続けた話は世界中に紹介され、広島を訪れた修学旅行生らが平和を願い、像に折り鶴をささげるようになった。
昨年はコロナ禍の影響で約860万羽、重さにして約7・3トンだったが、その一つ一つには、一人一人の平和への思いが込められている大切な折り鶴だ。
広島市ではこれらの折り鶴を「託された平和への思いを昇華させる」として、平成24年度から事業として希望する個人や団体に無償で配布。展示や再生紙に加工され、平和貢献活動などに幅広く再利用されている。
カミーノがファーノを作ったのは、見る人に興味をもってもらい、話をするきっかけづくりになれば、という思いからだ。
鍵本さんは「ファーノは、広げるとときに少し大げさな動きになる。それを見た人が『それは何?』となる。ファーノに興味をもってくれれば、折り鶴でできていることを伝えることができる」と話す。
根本にあるのは「平和」と「資源の循環」。「子供のときに折り鶴を折って広島に送ったという人は世界中にいると思う。ファーノをみたときに、どういう思いで折り鶴を折ったのか、平和を考え直すきっかけになればうれしい」と話していた。(嶋田知加子)
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ウクライナ支援のためのファーノは2200円(送料370円は購入者負担)。申し込みはカミーノの公式サイトから。4月30日まで。