「電車止めることが職責」〝闇〟伝えるJR西の語り部 脱線事故17年

JR福知山脱線事故当時の体験を伝える「語り部」として活動する大塚智之さん=18日、JR京都駅(渡辺恭晃撮影)
JR福知山脱線事故当時の体験を伝える「語り部」として活動する大塚智之さん=18日、JR京都駅(渡辺恭晃撮影)

乗客106人が死亡した平成17年のJR福知山線脱線事故は、25日で発生から17年を迎える。JR西日本では事故後に入社した社員が約6割となり、教訓の継承が喫緊の課題だ。懲罰的な「日勤教育」といった事故の背景要因を肌で感じてもらうため、事故前に入社した社員が「語り部」として、若手社員に当時の体験を伝えている。

「折を見て運転席からお客様のほうを振り返り、何千人もの命を預かっていることを感じてください」

今月10日、滋賀県米原市の会議室で米原列車区の係長、大塚智之さん(37)が若手の運転士や車掌にこう語り掛けた。

同列車区を管轄する京都支社では、令和元年秋から職場ごとに「語り部」を指定。約90人の運転士を指導する立場の大塚さんは昨年7月からその役目を担い、事故現場にある追悼施設「祈りの杜(もり)」などで10回ほど講演した。

事故発生時は入社3年目。別の路線の車掌で、事故に直接は携わっていない。ただ、「JRの常識は世間の非常識」ともいわれた当時の社内風土はまざまざと味わった。

標識のライトを付け忘れるミスをした際、電車に乗る業務を数日間禁じられてリポート作成を命じられた。同期の車掌は扉の開閉のタイミングを誤り、周囲から丸見えの場所で社内規定を繰り返し紙に書き写す作業をさせられた。見せしめのようで、「ミスをしても隠そうと思ってしまった」。

発生当日も、萎縮した現場の弊害は表れていた。昼から出勤予定だったが、報道で事故を知り、慌てて職場へ向かった。しかし、その職場では「担当線区ではないと、ひとごとのような雰囲気」が漂っていた。

平成19年に公表された事故の調査報告書では、事故を起こした運転士=当時(23)=が前の駅でオーバーランし、日勤教育を懸念するあまり運転から注意がそれた可能性が指摘されている。この運転士は過去に3回日勤教育を受け、ミスの原因を問う上司から「仕事をなめているとしか考えられない」「精神鑑定されるぞ」と詰問されていた。

事故後、こうした指導が問題視され、JR西は乗務上のヒューマンエラーを懲戒対象から除外した。大塚さんも後輩にささいなことでも報告を求め、「報告ありがとう」を口癖にしている。

そうした取り組みはなぜ必要なのか。当時を赤裸々に明かすことで、導入された対策の本質を若手社員が理解し、事故の再発防止につながると考える。

事故後しばらくは、乗客らからの刺すような視線を感じながら勤務した。事故を起こせばどれほど信用を失うか。それを身をもって知る大塚さんは、「運転士の職責は電車を動かすことより、止めることにある」と訴える。異変を感じたら躊躇(ちゅうちょ)なく電車を止めることができる運転士を育てるため、語り部を続けていくという。

コロナ禍で赤字、それでも重要な安全確保

JR西は事故後、教訓を基にさまざまな対策を取り入れてきたが、近年は新型コロナウイルスの影響で経営環境が悪化。事業の見直しと安全確保の両立が求められている。

JR西は事故を受け、経営層と現場社員が問題意識を共有する「安全ミーティング」を導入。安全施策を推進する部署の体制も強化し、予算の優先的な確保を図ってきた。

しかし、新型コロナの影響で収入そのものが激減。令和4年3月期連結決算の最終損益は最大で1165億円の赤字になる見通しだ。今月11日にはローカル線の一部赤字区間の収支状況を公表し、事業の合理化を進める姿勢を示した。

関西大の安部誠治教授(交通政策論)は「安全かつ安定的な輸送が鉄道事業の根幹。安全施策の推進は経営基盤の強化と二律背反ではない」と指摘する。

JR西は昨年、事故の教訓とそれに基づく対策をひもづけて認識できるようにまとめた冊子を作成した。安部教授はこれを評価した上で、「文章にしただけで終わらぬよう、経営の中核に据え、組織全体で内容の理解を深めていくべきだ」としている。(野々山暢)

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