話の肖像画

谷垣禎一(22)仏像と数珠を手に死刑執行命令

法相時代、衆院予算委で答弁する(左端)=平成25年4月
法相時代、衆院予算委で答弁する(左端)=平成25年4月

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《平成24年12月、自民党は衆院選で圧勝し、3年3カ月ぶりに与党に返り咲いた。直後に発足した第2次安倍晋三内閣で、谷垣さんは法相に就任した》


新内閣発足直前、誰かの政治資金パーティーの控室で安倍さんと居合わせ、「何かやってくださいよ」と防衛相などいくつかの閣僚ポストを提示されました。いずれも断ると「何だったら引き受けてくれるんですか」と食い下がられ、「そこまでおっしゃるなら」と法相を挙げました。政界に入る前は弁護士でしたからね。安倍さんは「じゃあ、それでお願いします」。組閣の日、首相官邸で告げられたポストは案の定、法相でした。


《在任中は11人の死刑囚への死刑執行を命じた。法務省が執行の事実と人数を公表するようになった10年11月以降では、上川陽子前法相の16人、鳩山邦夫元法相の13人に次いで多い》


過去に執行命令書への署名を拒んだ法相が何人かいましたが、法相を引き受けておいて死刑を執行しないなんておかしい。法律で死刑という制度が定められていて、その執行は「法務大臣の命令による」と書いてあるのですから、個人の信念や宗教上の理由で執行しないのは間違っています。できないのなら、法相としてただちに法改正の作業に着手すべきです。

ただし、死刑制度に対する世論の動向はよく見極める必要があるでしょう。内閣府が5年に1度実施している世論調査では、約8割が死刑制度を容認しています。一方、世界的には死刑を執行している国は少数派。(冤罪(えんざい)などの)弊害もないわけではありません。そういったことには十分に意を用いるべきだと思います。


《執行命令書の署名にあたっては、判決の関連資料を読み込み、死刑囚の生い立ちや犯罪に手を染めた経緯などにも意識を向け、自分なりに納得した上でサインすることを心掛けた》


死刑判決の資料はできるだけていねいに読むようにしていました。人の命を奪えと命令する以上は、そのために部下がそろえてきた資料をよく読み、「よし、これはやるべし」というふうにしないといけないと考えていたのです。

だけど、きちんと読み込もうと思ったら結構大変なんです。持ち出し禁止の資料は法務省の大臣室でしか読めませんから、国会会期中は読む時間があまりないんですね。それで執行が閉会直後になると「会期中を避けたのでは」と言われることもありました。

他の法相経験者はどうか知りませんが、私は大臣室の引き出しに仏像と数珠を入れておき、署名時に手を合わせていました。やっぱり、なかなか荷の重い仕事ですから。

私が執行を命じた死刑囚はほとんどが虐待を受けており、「こんな育て方をされちゃかわいそうだな」と思うような子供時代を送っていました。いろいろ事情はあると思いますが、子供は誕生を祝福され、「生まれてきてよかった」と思える環境で育つことが大事だと、つくづく思います。

1人だけ、タイプの違う死刑囚がいました。高校の同級生が「あいつはクラスのホープだった。必ずひとかどの人間になると思っていた」と証言していたのです。死刑判決を受けるような残虐な罪を犯す人に、こういう証言が出てくるのは珍しい。不思議に思っていると、秘書官が「これはばくちです」と言いました。ばくちに狂いカネに困って犯した罪だったのです。

私がカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の法整備に慎重だったのは、そういう人の死刑執行を命じなければならなかったからです。カジノは地域の発展に役立つかもしれない。ばくちをやった人がみんな犯罪に手を染めるわけでもないでしょう。それでも、もろ手を挙げて賛成する気にはなれないのです。(聞き手 豊田真由美)

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