近ごろ都に流行るもの

失われた民俗祭祀映像 後世へ残す㊤ 「イザイホー」神女の魂受け継ぐ

岡田一男監督「イザイホー」のフィルムをデジタル化した1コマ(昭和53年)=沖縄県久高島
岡田一男監督「イザイホー」のフィルムをデジタル化した1コマ(昭和53年)=沖縄県久高島

長い歴史を持ちながら途絶えてしまった民俗祭祀(さいし)の記録映像を後世に残し、公開する機運が高まっている。デジタル・アーカイブ化のクラウドファンディングが成立した沖縄県久高(くだか)島のイザイホー(昭和53年撮影)。映画化され4月30日に劇場公開が始まる北海道のキツネのイオマンテ(昭和61年撮影)。いずれも結果的に最後の祭祀記録となったフィルムだ。太古からの壮大な祈りは見る者を圧倒し、霊魂の姿をありありと具現化する。令和の今、心に響く南と北の秘蔵映像の物語を、2回にわたって伝える。

男を守る…ニライカナイの原型

白装束に黒髪を長く垂らした女たちが、憑依(ひょうい)されたように手を打ち、足を踏む。「エーファイ エーファイ」。緊迫した囃子詞(はやしことば)が響く。集団歌舞、綱引き…、ダイナミックな神秘の野外劇にくぎ付けになる。

神道、ニライカナイ、巫女(みこ)、村落祭祀。それらの原型と評される久高島のイザイホー、44年前の映像だ。

琉球王国の昔から12年に1度の午(うま)年に開かれていた。島に生まれ、島に暮らし、島で結婚した30~41歳の主婦が、島の男を守護する神女(しんじょ)となる儀式である。

過疎化により次の午年には開けず、この16ミリカラーフィルムが最後の記録となった。映像は17時間に及び、一部が映画化されたものの大半は人知れず保管されていた。昨年、全映像をデジタル・アーカイブ化するためのクラウドファンディングが行われ、目標600万円のところ764万9千円が集まった。支援者は459人。「多くの民俗学、歴史学研究者、映像関係者が賛同してくれたが、それだけでなく、名字を見ると半数以上、沖縄の人たちが出資してくれていた」

「イザイホー」フィルムのデジタル・アーカイブ化を進める、岡田一男監督=東京都文京区(重松明子撮影)
「イザイホー」フィルムのデジタル・アーカイブ化を進める、岡田一男監督=東京都文京区(重松明子撮影)

記録映像の監督でプロジェクトの主体、文化財映像研究会の岡田一男会長(79)が感謝した。「私も齢を重ね、人生の残り時間は少ない。動けるうちにフィルムを社会に還元したい」と奮起。沖縄本土復帰50年の節目にも重なった。

データ化した映像は、国立文化財機構東京文化財研究所で保管され、研究や教育に広く役立てられる予定だ。近々、経過報告の上映会を予定しているが、想定以上に手間と経費が膨らみ、4月、クラウドファンディングの継続支援窓口「イザイホー マンスリーサポーター」が発足した。また、上映会に先立って久高島の島民、全152戸にDVDが配布されている。

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