円安の加速に歯止めがかからぬまま、景気に及ぼす悪影響への懸念が一段と高まってきた。
外国為替市場の円相場は一時、約20年ぶりとなる1ドル=129円台の円安ドル高水準まで下落した。市場ではさらなる円安も意識されている。
円安に伴う原材料などの輸入価格上昇は企業収益を圧迫する。それが商品価格に転嫁されれば、消費低迷にもつながろう。こうした悪影響に対処する政府・日銀の責任は重大だ。
やっかいなのは、今の円安が対ドルだけではなく他の通貨に対しても下落する「独歩安」の様相であることだ。為替対応で欧米の通貨当局と連携しようにも、具体的な協調行動は期待しにくい。
鈴木俊一財務相は21日のイエレン米財務長官との会談で、日米通貨当局が緊密に意思疎通することを確認したが、そこまでなのだろう。前日の先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、為替に関する鈴木財務相の発言にさしたる反応はなかった。
市場でも、これらを材料視する動きはみられなかった。かねて欧米当局は、人為的に相場を動かす円買いドル売りなどの協調介入には慎重だ。日本単独で介入しても焼け石に水にしかなるまい。
そもそも円安が加速したのは欧米と日本の金融政策の違いに起因する。インフレ抑制のため利上げに動く米国に対し、景気回復が遅れた日本は大規模緩和を続けざるを得ない。そこで生じた日米間の金利差拡大を意識して、円は売られやすくなった。
この構造の下では円安基調は当面続く可能性がある。鈴木財務相が「悪い円安」と発言し、黒田東彦日銀総裁が「(日本経済に)マイナスに作用する」と語るなど、口先で円安是正へと誘導しようとしても市場に見透かされている。政府・日銀に手詰まり感があることは否定しようがない。
重要なことは、足元の円安がどれほど経済を冷やすかだ。円安は新型コロナウイルス禍やウクライナ危機に伴う資源や食料品価格の上昇に追い打ちをかける。負の側面に目を向けた企業や家計の適切な支援がいる。同時に、円安には輸出企業の収益改善などのメリットもある。その両面から円安の影響を十分に見極めるべきである。そのうえで必要ならば、金融政策の修正も含めて果断に対応しなければならない。