レトロな裏路地に脚光 横浜、映画などロケ名所に

映画やドラマの撮影で使われる吉田町第一名店ビル(左)の裏側に面する路地。壁の色が印象的だ=横浜市
映画やドラマの撮影で使われる吉田町第一名店ビル(左)の裏側に面する路地。壁の色が印象的だ=横浜市

数多くの映画やドラマの撮影場所となってきた横浜。その繁華街のなかの、とある「裏路地」が、実はここ数年、数々の映像作品で立て続けに登場している。そこは、歓楽街として知られる伊勢佐木町からほど近いまちの一角にある「吉田町第一名店ビル」の裏手に面した細く短い通りだ。同ビル裏側の赤茶色の外壁がアクセントとなり、一見、何の変哲もない静かな路地は、隠れたロケの名所となった。そんな知られざる人気ロケ地を訪ねると、そこは横浜の歴史をいまに残した場所だった。

JR関内駅から歩いて数分のところに、その雑居ビルはある。赤茶色の外観が特徴的な、4階建ての鉄筋コンクリート造り。1階に飲食店が並ぶ同ビルの裏手に回ると、自動車1台がやっと通り抜けることができるほどの狭い路地がある。

作品彩る〝名脇役〟

日中の日差しを遮るように、路地の片側一面に沿ってたたずむ同ビルの外壁には、電球の街灯がぶら下がり、複雑に絡んだ配線に配管、むき出しの室外機やガスメーターなどが所狭しと取り付けてある。その風景はどことなく「昭和レトロ」な面影を感じさせる。

ロケ地として頻繁に使われだしたのは、いまからおよそ15年ほど前からだという。平成18年放送の竹野内豊さんら主演の恋愛ドラマ「輪舞曲(ロンド)」で登場した頃から、静かに火がついた。

近年では、昨年の第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞などを受賞した草彅剛さん主演の話題作「ミッドナイトスワン」や、一昨年、中島健人さんと平野紫耀さんのダブル主演で県警の警察学校が舞台となったドラマ「未満警察 ミッドナイトランナー」などでも使われている。いずれもワンシーンでの登場だが、まさに〝名脇役〟として作品を彩ってきた。

業界関係者の間では「寂れた都会の雰囲気を撮影しようとすると、建て替えが激しい東京都内では、昔ながらの風情を残した建物はなかなかない。名店ビル裏の路地は全国でも貴重な撮影場所」と評判だ。多いときでは月に1回の頻度でロケが行われているそうだ。

「一番安いペンキ」

撮影が後を絶たないロケの名所となった、繁華街の裏路地。その「寂れた」イメージを演出するのは、赤茶色が印象的な同ビル裏側の外壁だ。

建築当初はクリーム色の塗装が施された同ビル。それが、いまからおよそ30年前の改装時、「一番安いペンキにしてくれ」と、管理人が知り合いの塗装業者に注文したところ、船底の塗装にも使われるさび止め用の赤茶色のペンキで塗り替えが行われ、以来、同様の雑居ビルが立ち並ぶまちのなかでも一味違った風情の建物になった。偶然が生んだ景観だった。

同所が「唯一無二のロケ地」となったのには、関東大震災から第二次世界大戦後の混乱期にかけてまちがたどった歴史も関係していた。道幅わずか3メートルほどの狭さのその裏路地がいまに残るのも、関東大震災後の区画整理当時のままだからだ。それは、大戦終了後、米軍に接収された関内・関外地区とその周辺では、区画整理事業など、まちの再整備が完全にはなされなかった経緯があった。そして、同ビルの建築は吉田町に隣接する接収地が返還された数年後のことだった。

未来の重要文化財?

近くで建築設計事務所を営む同ビルの歴史に詳しい笠井三義さんによると、「名店ビルが建てられた土地区画を考えると、設計上、現代のマンションやオフィスビルにはあまり向かない」としたうえで、そのために取り壊しや大規模改修がなされずに、65年前の完成当時のままのたたずまいを残すことができているという。

平成29年度の文化庁の調査で、同ビルは戦後建築遺産として国の重要文化財などを含む文化財候補にリストアップされており、建築物としての価値も高く評価されている。同ビルのテナントで吉田町名店街会の佐久間衛さんは「都会にはなくなってしまった風景が、ここにはある。歴史の偶然のなかで、いろんな要因が相まって、『オンリーワン』の魅力をもった路地になった」と語っている。

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