惨状と重なり
ここ何年か、社会的養護が必要な子供らと関わってきたなかで私は、子供に語り聞かせるための昔話の記憶が随分と曖昧なのに気づかされ、一から覚え直すことにした。おかげで今では〝持ちネタ〟も増え、語り口にも磨きがかかってきた―とは家族の評である。
先日は3歳の男の子に「舌切り雀(すずめ)」を聞かせてやった。桃太郎や猿蟹(さるかに)合戦、花咲爺(はなさかじじい)などとともに日本五大昔話の一つに数えられるくらいだから既にご存じかとは思うが、念のため粗筋をご紹介しておきたい。心やさしい老爺(ろうや)の飼っていた雀が糊(のり)をなめたのに腹を立てた老婆が、雀の舌を切って家を追い出す。哀れに思った老爺が雀の宿を探し当て、土産に小さな葛籠(つづら)をもらって帰る。開けると中には宝物が詰まっていた。これを見た強欲な老婆も雀の宿を訪ね、自ら望んで大きな葛籠をもらって帰ったところ、中からは蛇や毒虫が一斉に飛び出した。