朝晴れエッセー

春の思い出・4月22日

息子が大学を卒業し就職するときのことです。自宅からの通勤でと当たり前に考えていたのですが、初出社2週間ほど前、会社からの連絡で急遽(きゅうきょ)、高知勤務ということになったのです。高知市にも支店のある会社で、急に人員移動があったためとのことでした。

一人暮らしなどしたことのない息子。息子も私も不安でいっぱいで、会社からの連絡があったその日から、お米のとぎ方、炊き方、ボタンの付け方、アイロンのかけ方と花嫁修業のように教え込みました。

出発の日、主人が会社から借りてきたトラックに、息子の身の回りの物だけを積み込み、朝4時に主人、私、息子で大阪を出発。途中小雨が降りだし、車を止めてブルーシートを荷台にかぶせたこともあり、高知市に着いたのがお昼前でした。

会社の方で用意してくれていた部屋に3人で荷物を運び込み、息つく暇もなく近くの量販店に電化製品を買いに出かけ、あっという間に夕方になってしまいました。

主人と私は家路につくのですが、私たちを見送るために部屋の外まで出てきた息子に「がんばりなさい」と車の窓を開けて言う私に、不安と寂しげにうなずき「今日はありがとう」という息子を置いて、主人が車を出発させました。私たちの車が見えなくなるまでじっと車を見送る息子の姿に「大丈夫かな、一人で生活できるかな」と心配と寂しさで、こらえていた涙がどっとあふれ号泣してしまいました。

あれから14年、毎年春になるとこの日のことを思い出し、いまだに胸が熱くなる私です。


中川真由美 (61) 大阪市此花区

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