鑑賞眼

宝塚歌劇団宙組「NEVER SAY GOODBYE」現代と重なる切実さ

ジョルジュ・マルローを演じる真風涼帆(中央)©宝塚歌劇団
ジョルジュ・マルローを演じる真風涼帆(中央)©宝塚歌劇団

恐ろしいほど、現代と重なる作品である。1936年のスペイン内戦を描くが、ファシストと闘うため外国人民兵まで結束し、女性や子供も銃を手にする姿は、ロシアのウクライナ侵攻を想起させ、胸が苦しくなる程だ。小池修一郎作・演出。

ポーランド出身の人気写真家、ジョルジュ(真風涼帆)が、米ハリウッドで新進劇作家キャサリン(潤花)と出会う。2人はスペインで運命の再会を果たし、愛し合う。しかしジョルジュは、祖国のため闘いに身を投じる闘牛士ヴィンセント(芹香斗亜)ら、戦地の人々の生きようを目の当たりにし、命がけで記録する道を選ぶ。

冒頭は、ハリウッドでのパーティー会場にスターが集い、映画出演予定のヴィンセントらがマントを翻すきらびやかな世界が展開。ジョルジュもセレブの一人ながら、「デラシネ(根無し草)」を自称し、どこか冷めている。しかし内戦状態のスペインに渡ると一転、色彩のない世界だ。それぞれの正義のため、民衆同士が銃口を向け合う中、ジョルジュが静かに「ONE HEART」を歌い出す1幕ラストは胸を打つ。

「コーラスの宙組」らしい重層的な声が、圧のように熱く広がる様は、生の舞台ならでは。「ジキル&ハイド」で知られるブロードウェーの人気作曲家、フランク・ワイルドホーンの憂いを帯びた音楽も、肚に響く。

初演当時は〝スペインの歴史もの〟だった作品が今、「この瞬間も、争いで死んでいる人がいる」という実感が、演者にも、観客にもある。さらにゲルニカでの無差別爆撃を報道しようとするキャサリンに、ソビエトを後ろ盾に規制をかける統一社会党幹部アギラール(桜木みなと)…とまるで現在進行形の物語に見える。

スペイン内戦を描く「NEVER SAY GOODBYE」。戦地の様子をカメラで伝えるジョルジュ・マルロー(真風涼帆)©宝塚歌劇団
スペイン内戦を描く「NEVER SAY GOODBYE」。戦地の様子をカメラで伝えるジョルジュ・マルロー(真風涼帆)©宝塚歌劇団

トップ5年目の真風は、初舞台が16年前の今作初演。歌唱力が上がり、円熟味が漂う。名前の通り涼やかな魅力の持ち主だが、今作では志ある骨太の男の熱い志を感じさせる演技で、代表作になるだろう。トップ娘役就任から丸1年を経た潤も、芯の通った大人の女性役をていねいに演じた。闘牛士の衣装が良く似合う芹香の美丈夫ぶりにも、目を奪われる。本拠地・宝塚での公演開幕が2度も延期されたこともあり、組子全員が隅々まで、歌と群舞で演じているというよりは、闘っている印象を受けた。また今回、男役ながら女性闘士役で出演している留依蒔世の歌唱が力強く、素晴らしい。

初演でも作・演出の小池が、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した傑作。しかし戦争が続く今、図らずもこの再演で、作品が真の輝きを放ったといえるだろう。5月1日まで、東京宝塚劇場。0570・00・5100。(飯塚友子)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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