実は「打楽器の街」大阪 国内初のシンバルメーカー ドラマーも多数 伝統つむぐ

国内で初の本格的なシンバルメーカーとなった「小出製作所」=大阪市平野区
国内で初の本格的なシンバルメーカーとなった「小出製作所」=大阪市平野区

数多くの文化・芸能を育んできた大阪には、実は「打楽器の街」としての顔もある。国内初の本格シンバルメーカーを擁し、かつては国内外のプロにその名を知られる高級ドラムメーカーもあった。人材でも著名なドラマーを数多く輩出。打楽器の街の背景には、楽器作り、販売、後進育成に情熱を燃やす人々のつながりがあった。

本格シンバル

「ゴーン、ゴーン…」

大阪市平野区の住宅街にある金属加工業「小出製作所」。小出俊雄社長(73)が、ハンマーマシンを金属板に打ち込み成形する音が響いていた。

従業員3人の町工場の名前は製品名で名高い。「小出シンバル」。国内メーカーで初めてプロ向けの本格シンバルを手がけ、ドラマーらから支持されている製品だ。

シンバルの表面にハンマーでつける凹凸は、響きを高める熟練の職人技。ただ、製品の強みについて、小出社長は職人技だけでなく異業種他社とともに「新しい合金を作ったこと」を一番にあげる。

シンバルは、銅とスズの合金・青銅が材料。スズの含有量が多いほど音に広がりが出るが、一方で青銅板は堅く、成形しにくい。そこで同社は青銅に、チタンやジルコニウムという金属を混ぜ割れにくくした上で、鉄を混ぜて音が次第に薄まっていく減衰時間を調整した独自製品を開発。演奏家の要望に応えている。

この技術は、パートナー企業や研究機関との連携から生まれた。

同社は昭和22年創業。当初は釜などの日用品を手がけ、シンバルに着手したのは平成10年ごろ。若手社員の発案だった。「ノウハウはなく、今のようにネットもないので図書館に通って勉強した。製品を輸入し素材も研究した」という。

15年に自社ブランドを製品化。しかしシンバルに適した比率のスズを含む青銅は手に入りにくく、材料確保に苦労する日が続いた。

そんな折、思わぬところから道が開ける。非鉄金属製造業、大阪合金工業所(福井市)から、シンバル製造に関して問い合わせが入った。当時、大阪合金工業所はシンバル製造を計画し、小出製作所の存在を知って連絡してきたのだ。

大阪合金工業所は小出社長の熱意に共鳴、自ら製品は作らず、金属素材を提供することになった。両社はシンバルに適した素材を共同開発。福井大学などとも連携してシンバルの素材と音響についての研究を進め、一部は論文化された。小出社長は「シンバル作りは人のつながりで成り立っている」と話す。

シンバルは欧米メーカーの独壇場だが「小出シンバル」は国内一貫生産。近年は米国の見本市にも出展し、世界への飛躍も目指す。今年は登場から20年目。小出社長は「コロナ禍で厳しい時期が続いた。海外での販売を広げていきたい」と意欲を見せる。

「くいだおれ太郎」のスネアドラムはサカエリズム楽器製=大阪市中央区
「くいだおれ太郎」のスネアドラムはサカエリズム楽器製=大阪市中央区

国内一貫生産

「菅沼孝三さんへのリスペクトを含めてたたいている方がいた。先生はすごく喜んでいると思います」

昨年11月23日、大阪フィルハーモニー会館(大阪市西成区)で行われたドラムソロコンテスト。腕に覚えのあるドラマーたちが90秒間、自由演奏を競い合った場で審査員を務めたプロドラマー、川口千里さん(25)は感慨深げに話した。

川口さんは同月8日に62歳で死去した大阪府出身のドラマー、菅沼孝三さんの弟子。菅沼さんは生前、バーなど小規模会場でアマチュアを交えた演奏会を定期的に開催しており、後進の育成、指導に熱心なことで知られていた。コンテスト参加者の演奏には、菅沼さんが得意としていた旋律の引用が見られ、影響の大きさをうかがわせた。

同コンテストは、大阪府内のオーケストラのメンバー・OBからなる「関西打楽器協会」(坂上弘志理事長)が主催。会員はマリンバなどクラシックの打楽器奏者が中心だが、ドラム販売店も入会したことを機に、コンテストを開始。別の審査担当者は「ドラマーの技術を底上げし、盛り上げたかった」と語る。

歴代優勝者には、提供を受けた楽器を公の場で使用する「エンドース契約」がメーカーとの間で成立した人もいて、若手の可能性を広げている。小出社長は「各地に『打楽器協会』はあるが、関西の盛り上がりは大きい」と説明する。

アメリカ式店舗

大阪市西部、京セラドーム大阪近くの木津川沿い。倉庫などが立ち並ぶ一角に昨年、ユニークなドラム販売店が登場した。バイク店2階にオープンした「瀬楽ドラムガレージ」だ。

ドラムセットを円形に並べた「瀬楽ドラムガレージ」の店内=大阪市西区
ドラムセットを円形に並べた「瀬楽ドラムガレージ」の店内=大阪市西区

入り口正面にはバスドラムが2つ並んだ「2バス」のセット。他のセットとともに円を描くように並べられた様は壮観だ。国内の楽器店では、スペースの関係から、組み立てたドラムセットを並べて販売されている例は少ないという。

店長の田名瀬信哉さん(50)は「広い店内でセットが並べられ、お客さんも好きにたたけるアメリカの楽器店をイメージした」と説明する。1階のバイク店からエンジン音もするため、ドラムの音量を比較的気にしなくていいのも特徴という。

 バイク店2階に入居する「瀬楽ドラムガレージ」の建物=大阪市西区
バイク店2階に入居する「瀬楽ドラムガレージ」の建物=大阪市西区

昨年はコロナ禍のためイベントはできなかったが、2年目の今年は盛り返しをはかる。田名瀬さんは「お客さんがそれぞれセットに座り、並んでたたくこともできる。大阪らしく交流できる場にしたい」と話す。(織田淳嗣)

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