鑑賞眼

「セールスマンの死」 段田安則が好演 東京・PARCO劇場

「セールスマンの死」で主人公を演じる段田安則(提供写真、細野晋司撮影)
「セールスマンの死」で主人公を演じる段田安則(提供写真、細野晋司撮影)

舞台中央に置かれた大きな冷蔵庫。宙に浮かぶ2本の電信柱。いずれも資本主義の象徴として設置されている。消費社会に翻弄され、理想と現実の間で苦しむ一人の男を描いたアーサー・ミラーの代表作「セールスマンの死」(企画・製作パルコ)が4月上旬、東京・PARCO劇場で開幕。全国各地で上演される。

1950年前後の米ニューヨーク郊外を舞台に、かつては敏腕セールスマンだったウィリー・ローマンが主人公。今や63歳となり、会社の経営者からは厄介者扱いされ、長男との関係もこじれたまま。疲れ切った様子で帰宅し、自ら命を絶つまでを描いた作品。

主人公は、ウィリーとほぼ同年齢という段田安則(65)が演じている。ウィリー家の台所や夫婦そして息子たちの寝室のセットは可動式でスピーディーに場面が入れ替わる。ウィリーの記憶が、目まぐるしく移り変わる様子をうまく表現していた。

冒頭、大きなカバンを抱え、家に帰ってきたウィリーは焦燥しきっている。カバンの中身は明らかではないが、恐らく何か商品のサンプルが入っているのだろう。

ふらふらとした足取りで青息吐息といった様子。やつれたたたずまいからは寂寥感が漂う。段田は熟練の演技力で、老いへの不安と理想に敗れた失望感に打ちひしがれるウィリーを体現していた。

これまでセールスに走り回り、マイホーム、自動車、冷蔵庫、洗濯機といった豊かさの象徴のようなものを月賦払いで手に入れてきたウィリー。家のローンは25年で完済する。劇中のウィリーのせりふが消費社会に対する恨み節のように響き、ウィリーの悲劇的な未来も予言しているかのようだ。

「一度でいい、壊れる前に払い終わって、自分のものにしてみたいよ! 年じゅうゴミ捨て場と競争してる! 車のローンが完済すれば、ポンコツ寸前。冷蔵庫のベルトはやたらめったら擦り切れる。タイミングを計ってあるんだな。やっと支払いが終わったところで、消耗するよう」

「考えてもみろ。家のローンのために一生働いて。やっと自分のものになっても、住む人間はいなくなる」

演出を手掛けた英国の演出家、ショーン・ホームズは「一般的に退職後の人生への移行には、困難を伴うという事実がある。1週間に何千キロも自分で車を運転して長時間働き、仕事への思い入れも人一倍強いのに、雇用者の方はそこまで自分を信頼してくれてはいないという状況下で働く、リタイア間近の人間の姿-というものが、日本の現状を重ねることで、より理解できる気がした」(パンフレットより)。

まるでウィリーの人生と、あと数年で定年を迎える自分自身の人生とが重なり、切なくなる。

4月4~29日、東京都渋谷区のPARCO劇場。5月3日、長野県松本市のまつもと市民芸術館。5月7、8日、京都市左京区のロームシアター京都。5月13~15日、愛知県豊橋市の穂の国とよはし芸術劇場PLAT。5月19~22日、兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター阪急。5月27~29日は福岡県北九州市の北九州芸術劇場。(水沼啓子)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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