前橋商工会議所会館(前橋市)で19日に開かれた群馬「正論」懇話会(会長=田中善信・田中-二階堂法律事務所長)の第58回講演会。「どう備える台湾有事 ウクライナ危機を教訓に」と題する講演で、東京国際大教授で元産経新聞特別記者の河崎真澄氏は台湾をめぐる昨今の情勢を詳述し、「今日のロシアは明日の中国だ」などと論じた。参加者らは約1時間半の講演に熱心に聞き入り、質疑応答も活発に行われた。(柳原一哉)
2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は約2カ月に及び、長期戦の様相を呈しつつある。この間、国際社会はロシアに厳しい目を向けてきたが、同様に中国と台湾情勢もクローズアップされている。河崎氏は「この30年で、これほど台湾情勢が注目されたことはない」と話した。
背景として、中国とロシアはいずれも独裁体制による強権国家であることや、核保有を背景に政治力と軍事力を用いて一方的な現状変更を試みる点など、両国には共通する同質性が目立つと指摘した。
その上で、ロシアがウクライナをロシアの一部、中国も台湾が中国の一部だという類似する主張に着目。中国で発行された1933年版「国恥図」で台湾や沖縄、東南アジアまで「諸外国に奪われた自国領」と位置付けられていると紹介し、中国は依然として台湾併呑(へいどん)の野心を隠していないと説明。「今日のロシアの姿は明日の中国の姿に重なる」と喝破した。
こうした中国の野心に歯止めはかかるのか。河崎氏は、民主主義国では強権国家に融和的な候補者や政党は不利になるとの見通しを示し、「若い世代の有権者の選挙での投票行動、政治を動かすソフトパワーに期待したい」と表明。
さらに、日本が先進7カ国(G7)の一員であることから、アジアの安全保障の実現を図るうえで、指導的な役割を果たしていくべきだとも主張した。
河崎氏は産経新聞の台北、上海両支局で長年、特派員を務めた。講演では、取材中、中国側に拘束されたりしたエピソードを交えつつレジュメや地図など豊富な資料を示しながら、懇切丁寧に説明した。
講演に耳を傾けた前橋市の議員秘書、中野泰介さん(30)は「ウクライナ危機は、日本にとっても国民にとっても防衛に目を向ける絶好の機会になった。対岸の火事とみるのではなく、危機意識を持っていかなくてはいけない」。
渋川市の会社相談役、鈴木喜代さん(87)も「中国やロシアのような約束を守らない国と、どう付き合っていくのか。憲法改正の議論がいまタブーとなっているのは、おかしなことだ」と話していた。
前橋市の山本龍市長も講演に駆け付け「(1999年の)台湾地震の際、日本の救援隊が即日現地に駆け付けたことを台湾の人々がいかに感謝していたかを(講演で)知り、うれしかった。その気持ちが東日本大震災での支援のお返しにつながっている。やはり台湾は民主主義の側にいなくてはいけない」と語った。
■かわさき・ますみ 昭和34年、東京都出身。日大芸術学部卒業後の62年、産経新聞社入社。経済部、外信部などを経て平成14(2002)年に台北支局長、20(2008)年から10年にわたり上海支局長を務めた後、論説委員兼特別記者。4月から現職。台湾・中国駐在の経験と信頼関係を基に「李登輝秘録」を執筆するなど、中国・台湾問題のエキスパート。